長崎和牛、コロナで値崩れ 「安い今こそ食べて」と農家願う

牛の体調を見極めながら丹念に世話をする喜々津さん=東彼川棚町

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、県を代表するブランド産品「長崎和牛」が苦境に立たされている。国内外の人の動きが止まったことで外食産業が大打撃を受け、枝肉、子牛とも価格が落ち込んでいる。農家が経営に頭を悩ませる中、県やJAは消費拡大へキャンペーンを展開し後押しを図る。
 長崎和牛は、長崎和牛生産者登録制度に登録した農家や法人が手掛ける長崎育ちの和牛の総称。県によると、2018年の県の肉用牛農業産出額は259億円で県の農産物トップ。12年の全国和牛能力共進会「肉牛の部」で日本一になったことや、外国人観光客需要の高まりで枝肉価格が上がり、この10年で60億円伸びた。4等級以上のものは主に消費額が大きい大都市圏へ。県内では観光客や結婚式用としてホテル、レストランでの扱いが多かった。
 だが、新型コロナの感染拡大で外国人観光客が途絶え、国内でも外出自粛の動きが広がると、外食の需要が一気に低下。環境は一変した。
 「高級牛肉の行き場がなくなった」。佐世保食肉センター(佐世保市干尽町)の大山康晴社長は表情を曇らせる。需要の低迷で昨年11月以降、枝肉価格は右肩下がり。特に最高級のA5ランクは、昨年11月の1キロ2651円から4月は2146円に。約8年前の水準にまで落ち込んだ。子牛相場も低迷。県内で扱う頭数が多い平戸口中央家畜市場では、半年前は1頭平均77万円台だったが、4月は56万円台に急落した。
 この状況に農家は危機感を募らせる。12年全国和牛能力共進会で日本一になった肥育農家の一人、喜々津昭さん(71)=東彼川棚町=によると、半年で1頭につき30万円近く下がった。「この値が続けば管理費、餌代、人件費が出ない。牛マルキン(国の肉用牛肥育経営安定交付金制度)で補助金が出ても赤字」
 値崩れが影を落とすのは経費面だけではない。需要減で牛の出荷を先延ばしにすれば体重が増えて足腰が弱り、死んでしまう危険性がある。約20カ月、ストレスを与えず丹精込めて育ててきた命。喜々津さんは「値段が下がっている今こそ県民のみなさんに食べてもらいたい」と願う。
 県などでつくる長崎和牛銘柄推進協議会は、長崎和牛が当たるキャンペーンを実施。県JAグループも、AコープやJA農産物直営所などで消費拡大企画を準備している。毎年、長崎和牛フェアを展開しているスーパーのS東美(長崎市)では、枝肉が下がった分、販売価格も2割ほど安くなった。客の反応もよく、特売の比率を増やし提供しているという。
 喜々津さんはこの春、新しく作った名刺に「ONE TEAM 長崎和牛」と入れた。「厳しい今こそ一番の頑張りどき。頭数を減らさず維持し、県内で育っている後継者を守っていきたい」

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