コロナ禍の平和発信 オンライン活発化 訴えの声、上げ続ける 被爆者と若者が連携する「新たな継承の形」

ピースボートが主催した「オンラインNPT再検討会議」の画面。10代の若者から被爆者まで幅広い年代が参加し、約600人が視聴した

 被爆75年の今年、新型コロナウイルスの世界的流行の影響で、予定されていた核廃絶・平和関連の国際会議も軒並み中止、延期となっている。こうした状況下、核廃絶や平和を訴える声を上げ続けようと、若い世代を中心にオンラインを活用する動きが活発化している。被爆者と若者が連携する新たな継承の形につながる可能性も出てきそうだ。
 長崎市宝栄町の活水高。5月中旬の昼休み、情報室に平和学習部の部員約30人が集まり、3年生が下級生にオンライン会議のやり方を教えていた。「チャットやビデオ通話もできて便利。次のミーティングで試してみよう」。部長の山口雪乃さん(17)が呼び掛けた。
 被爆地の長崎や広島、米ロの高校生が核軍縮について討議するフォーラムが3月、米国で開催予定だったが、新型コロナで中止に。参加予定だった山口さんら3年生3人はビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」を利用し、同じく参加予定だった米国の高校生らと平和への思いを語り合った。相手の顔を見て話せるという安心感の一方、細かな感情表現の難しさなども感じたという3人。「直接対話できるのが一番だけど」と前置きした上で、オンラインによる平和活動について、口をそろえた。「意外とありかも」

 4月下旬、被爆者や世界の平和団体関係者らが核廃絶や環境問題などについて発言する様子がネット上に流れた。オンラインで開かれた原水爆禁止世界大会。当初は核拡散防止条約(NPT)の運用状況を点検する5年に1度のNPT再検討会議に合わせ、米ニューヨークで開く予定だったが、再検討会議の延期に伴い、オンラインでの開催に切り替えた。
 世界中の約千人が視聴。発言者の一人、国際平和ビューローのライナー・ブラウン共同代表は「平和と軍縮を求める声を私たちは上げ続けなければいけない。街頭でもオンラインでも。きょうの世界大会はまたとない出発点だ」と意義を強調した。
 被爆者で、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の田中熙巳(てるみ)代表委員(88)もオンライン会議の可能性を実感する一人だ。自身はこの大会を含め複数回のオンライン会議を経験。今回、画面上には、距離や経済的な問題でこれまで参加できなかった人たちの顔もあり、「“議長役”がうまく回せば、有意義な意見交換の場になる」とみる。高齢者の前で萎縮しがちだった若者たちの積極性という収穫も得たという。
 非政府組織(NGO)のピースボートが、「オンラインNPT再検討会議2020」と銘打って4月に実施したオンライン会議。若い世代が活発に質問する姿も目立った。口火を切ったのは広島県の高校1年の女子生徒。「平和な世界をつくるために、中高生に何ができますか」。初々しい質問に思わず大人たちのほおが緩んだ。その後も次々と若者らが質問を投げかけた。約600人が視聴。ピースボートの畠山澄子さん(31)は、オンラインは自宅で気軽に参加できる半面、集中しづらい面もあるとして「オフラインよりも飽きさせない工夫が必要」と指摘する。

 利便性とともに、オンライン会議には課題も見える。
 「やばい」。5月17日午後8時ごろ。長崎大生と県立大生の男女7人でつくる「ナガサキ・ユース代表団」のメンバーは焦っていた。2時間後に迫るオンライン発表会。その直前リハーサルでズームへのアクセスができなくなったのだ。
 原因はアプリの不具合だった。全員で対処法を考えたが時間切れ。画面の向こうには、国内外の参加者が待っていたが開催を延期せざるを得なかった。「まさか(発表会)当日に使えなくなるとは思わなかった」とメンバーは想定外の事態に困惑。発表会は1週間後に開かれた。
 被爆者の高齢化が進む中、オンラインという手法は平和発信、継承の新たなツールとなり得るのか。
 ユース代表団OBで、「オンラインNPT再検討会議」に参加した長崎大大学院1年の中島大樹さん(22)はコロナ禍の中での新たな動きをこう見ている。「これまで若者と高齢者が活動を共有する場は意外と少なかった。オフラインの企画では年代が偏りやすく、年代を超えて交わることができたのはオンラインだからこそ。今の流れは活動の幅が広がっていくチャンス」
 NGO、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の川崎哲国際運営委員(51)も「オンラインの普及は思うように外出できない被爆者の語り部活動の可能性も広がる。被爆者が若い人に手伝ってもらいながらオンライン会議を一緒に作り上げていく、そのプロセスこそが新たな継承の形になり得るのではないか」と話す。

オンライン会議のやり方を確認する生徒たち=長崎市、活水高

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