ひとえに「衝突被害軽減ブレーキ」と言っても、その性能は千差万別
いまや新車に欠かせない装備といえば、障害物を検知して衝突が避けられないと判断するとクルマが自動的にブレーキをかけて減速する「衝突被害軽減ブレーキ」だ。一般的には通称「緊急自動ブレーキ」、略して「自動ブレーキ」と呼ばれたりもする。
最近の新車では当たり前の装備になっているけれど、実は完全停止までおこなえるタイプが日本ではじめて搭載されたのは2009年とわずか10年ちょっと前のこと。ちなみに1号車はボルボ XC60で、知名度を一気に高めたのが翌年登場したスバル レガシィの「アイサイトver.2」だった。
それから10年。衝突被害軽減ブレーキは飛ぶ鳥を落とす勢いで普及すると同時に、システムもどんどん高性能化。いまや軽自動車にも当然のように付いている。だから、どのクルマを選んでもいい……なんて考えている人がいたら、ちょっと待った! 決してどれもが同じなんてことはないのだ。メーカーや車種により性能差が存在するのである。
そこで今回は、軽自動車の先進安全装備のうち衝突被害軽減ブレーキに的を絞って、その違いや選ぶポイントをお伝えしよう。
メーカーごとに違うシステム名称はあえて覚えるも必要なし
システムはメーカーごとに名称があり、最新のものは
スズキ:セーフティ サポート
ホンダ:ホンダセンシング
ダイハツ:次世代スマートアシスト
日産:インテリジェント エマージェンシーブレーキ
三菱:e-Assist
といった具合。しかもそれは他の先進安全装備も含めての総称だったりもするから、パッと見ただけではどんな性能かはまったくわからない。
だからまず知っておいて欲しいのは「名前なんて覚える必要はない」ということ。各メーカーはシステムに名前を付けているけれど、それはあくまで“単なる名前”に過ぎず、そこから性能を読み取ることはできないのである。
衝突被害軽減ブレーキで注目すべきは「対象物」「対象となる環境」「作動速度」の3つ
ではどこを見ればいいかと言えば、ポイントはズバリ3つ。「対象物」と「対象となる環境」、そして「作動速度」だ。
極端な話、かつて軽自動車は「車両」しか検知できず上限速度が約30km/hまでが主流だった。これでは「ないよりはずっといい」けれど性能としてはあまり高くない。それに比べると今のシステムはどの軽自動車でも進化している。
とはいえ、性能が高まったと言えどもやはり性能差があるので新車購入時には能力をしっかり理解しておくのがマスト。できることとできる能力は意外に違うのだ。
まずは「対象物」。これは『車両』だけなのか、それとも『歩行者』や『自転車』まで検知できるのかという差がある。
「対象となる環境」は、基本的に車両であれば夜間も検知できるが、差がつくのは歩行者や自転車。それらに対して『昼間だけ』なのか、それとも『夜でも検知できるのか』という違いがある。
そして「作動速度」は、対象物(対車両と歩行者や自転車とでは異なることが多い)に対して自車速度がどのくらい速くても対応できるかというもの。対応速度の高さを競う必要はないが、とはいえ低いと作動範囲が狭まるので万が一の状況で差がつく。細かく言えば、対象物の速度差がどのくらいまで対応しているかもチェックしたい。
メーカー別最新軽自動車の性能差は?
最新システムで比較すると、スズキはハスラーに搭載する「デュアルカメラブレーキサポート」において、車両と歩行者を検知し夜間も対応。ブレーキの作動速度は約5~100km/hで、対車両が約50km/h(対歩行者は約30km/h)未満であれば衝突を回避できることもある。
ホンダがN-WGNに搭載する「ホンダセンシング」の衝突軽減ブレーキ機能は、夜間でも車両と歩行者、自転車に対応。横断中の自転車まで検知するのがポイントだ。衝突を回避できる可能性がある速度は公表されていないが、システムの作動速度は約5~100km/hとなっている。
ダイハツ「スマートアシスト」の最新版を搭載するのはタント。対象は車両と歩行者で、夜間の歩行者には対応していない。システム自体の作動速度は表記されていないが、被害軽減ブレーキアシスト機能は速度差が約30~80km/h(対歩行者は速度差約30~50km/h)だという。
日産「エマージェンシーブレーキ」の最新システムはルークスに搭載しているものだが、これは三菱 eKスペース/eKクロススペースに搭載している「e-Assist」も同じ仕掛け。夜間の歩行者にも対応し、システムの作動速度は約10~80km/h(それ以下の低速時は低速衝突軽減ブレーキ機能が作動)。歩行者に対しては上限約60km/hとなっている。
第三者機関が統一した基準でテストをしている
ただ、衝突被害軽減ブレーキの性能はメーカーが公表する数値だけを見てもわかりにくい。そこで、自動車事故対策機構という独立行政法人が第三者機関として統一した基準でおこなっている「JNCAP」と呼ぶテストを参考にするものいいだろう。試験結果がウェブサイトで公表されている。
ちなみに上記の説明は全て前進のものだが、バック時に接触を防ぐ、後ろ方向の衝突被害軽減ブレーキを装着している車両もある。スズキ ハスラー、日産 ルークス、三菱eKスペース/eKクロススペースなどだ。車庫入れなどでの不注意の接触を防いでくれる安心機能だから、メリットは大きい。
最新システムは複数のセンサーを組み合わせてウィークポイントを解消している
ところで、昨今はいくつものセンサーを備えて総合的に機能するケースが多いので絶対的な目安とはならないが、システムによって使っているセンサーが異なり、その特徴を知っておくとシステムの性能を知る目安となる。
赤外線
○近くの対象物との距離を正確に測れる
×遠くのものは検知できない(高い速度には対応できない)。対象物が何かはわからない。
単眼カメラ
○対象物が何かを認識でき、歩行者にも対応。
×正確な距離を判断しにくい。
デュアルカメラ
○対象物が何かを認識でき、歩行者にも対応。
×高い速度で状況を把握するのは苦手。
レーダー
○遠くのものでも正確に距離を測れる。
×歩行者には対応できない。コストが高い。
最新のシステムは、それらを組み合わせて使うことでウィークポイントを解消していることが多い。たとえば日産のエマージェンシーブレーキや三菱e-Assist、そしてホンダセンシングの最新バージョンはモノカメラにミリ波レーダーを併用。性能を求めてコストをかけているのが分かる。
いっぽうスズキのデュアルカメラサポートやダイハツ スマートアシストはデュアルカメラを活用している。こちらはハイレベルな性能までを求めないかわりに、コストアップを抑えているといっていいだろう。
軽自動車の安全性能は日々進化して高性能化している
最後にお伝えしたいこと。それは「軽自動車だからシステムの性能が低い」というわけでは決してないこと。日々進化して高性能化しているのである。
たとえばルークスやeKスペース/eKクロススペースに搭載しているのは日産や三菱の最高峰のシステムだし、N-WGNのホンダセンシングもデビューがより新しい「フィット」以外では最高水準となっているのだ。
[筆者:工藤 貴宏]