<いまを生きる 長崎コロナ禍> お菓子がつなぐ”絆” 佐世保の移動販売に笑顔広がる

 佐世保市の広場に週に1回だけ、「お菓子屋さん」がやってくる。その名も「青空スイーツ」。市内の菓子店やパン屋が5月に始めた移動販売だ。新型コロナウイルスの影響で買い物の際にも人との非接触が推奨される今。会場を覗くと、お菓子がつなぐ「絆」があった。
 「SASEBOスイーツフェスティバル」に毎年参加する三つの店と有志が始めた。市内では車がなかったり、斜面地に住んでいたりする「買い物難民」が増加。一方、昔ながらの菓子店も大型スーパーの台頭などで生き残りが難しくなっている。客が来られなければ、店側が訪ねよう-そんな意図でスタート。近所にチラシを配り開催を知らせている。
 5月25日午後4時。相浦地区の細い路地を抜けた先の公園に、移動販売の車3台が止まった。真ん丸のクリームパンに小さなパウンドケーキ…。トランクに手作りの菓子やパンがずらりと並べられた。

青空スイーツでパンなどを買って楽しむ地域住民(左)=佐世保市内

 この日はあいにくの曇り空だったが、一人の女性が早速、公園にやってきた。近くに住む県立大1年の伊藤萌子さん(18)。
 この春、親元を離れ大分県から引っ越してきたが、新型コロナで学校は遠隔授業に。アルバイトもできず、たまにスーパーに買い物に出掛けるぐらいの毎日。そんな時、アパートの郵便受けにチラシが届いた。「(野外の店は)新鮮。気分が変わった」。伊藤さんは頰を緩めた。
 年配の男性(71)に声を掛けると、手に提げた袋を見せてくれた。一つは家族の分、もう一つは贈り物。7年前に亡くなった妻の仏壇に、今も手を合わせに来てくれる妻の元同僚に贈るのだという。
 「普段は何もお返しができないから。あちらも孫がいてお菓子なら食べるかなと思って」。男性は照れくさそうに笑った。

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 「青空スイーツ」は、もっと早く始める予定だったが、新型コロナで開催がずれ込んだ。外出自粛の影響などで菓子店なども客足が減って環境は厳しい。
 それでも、出店した「パルパン」(矢峰町)の重友萌さん(36)は手応えを感じている。「私たちが作ったものは誰かと過ごすために食べてもらっている。自分で見て選ぶことは、ネットでの買い物と違った豊かさがあるはずだと思う」
 買い物はとっくに済んだのに、公園のベンチに腰掛ける女性(77)がいた。隣には夫と友人。女性は「お店の人や近所の人とも話せる。新しい楽しみができた」とほほ笑んだ。
 雲の向こうにはきっと、きらりと光る「青空」が広がっている。

 


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