創業311年 江崎べっ甲店が閉店へ 文化財の店舗は解体 「熟慮重ね」決断

今月中に閉店し、解体される江崎べっ甲店=長崎市魚の町

 長崎市の眼鏡橋近くにある創業311年の老舗、江崎べっ甲店(江崎淑夫社長)が今月中に閉店することが4日、分かった。1898年に建築、国の登録有形文化財で市の景観重要建造物に指定されていた店舗も月内に解体される。江崎社長は「伝統工芸を守り続けるのが老舗の責任と思い奮闘してきたが、将来を見据え、閉店という選択をした」としている。跡地の売却先を探している。
 江崎社長によると、ワシントン条約で1993年から、べっ甲細工の原料であるタイマイの国際的商取引が禁止になり、輸入のほか、土産物を海外に持ち出すこともできなくなった。将来、原料が枯渇するのは明らかといい、職人の後継者は不在、愛好家の高齢化など業界を取り巻く環境は厳しさを増していた。「わたしたちの努力だけでブームを巻き起こすのは無理。熟慮を重ね、余力のある中で店じまいをすることにした」と説明。江崎べっ甲店の名は何らかの形で残し、在庫の売却方法や展示物の譲渡先を模索するという。
 閉店に伴い、黒しっくい塗り、和洋折衷様式の店舗は解体する。市景観推進室によると、店からの申請を受け、4月20日に景観重要建造物の指定を解除した。長崎くんちの庭見せで一般開放され、長崎さるくのコースにも組み込まれるなど、市民に長年親しまれてきた名所。市は取得も検討したが、金額が折り合わず断念。解体を前に店舗を3Dで計測し、データを保存する。同室は「市の象徴的建物がなくなるのは残念」としながらも、個人の財産処分について「行政として立ち入ることはできない」と話した。
 4日、シャッターが閉まった店の写真を撮っていた同市立山4丁目の男性(66)は「長崎の代表的な建物がどんどんなくなり悲しい。記憶に残しておきたい」と名残惜しそうに語った。


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