「早く財産を引き渡せ」 息子が母親を殴打し三度目の逮捕 それでも息子をかばう母親 虐待は繰り返される…|裁判傍聴

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平成27年に傷害罪、30年に暴行罪で検挙された福澤正勝(仮名、裁判当時61歳)は令和2年に再び暴行罪で検挙されました。被害者は三回とも同じ人物です。今回の犯行時、86歳だった実母でした。

彼は中学卒業後、職を転々とした後、生活保護を受けながら一人暮らしをしていました。彼には精神障害があり働けなくなってしまったのです。

一方、彼と離れて一人暮らしをしていた母親は平成26年から認知症の症状が出てきました。施設に入ることは拒否しましたが、ケースワーカーの勧めで財産は福祉施設に管理してもらっていました。

母親が認知症になってすぐの頃は彼は母親の住む家に通い介護をしていました。しかしそれも長くは続きませんでした。彼は母親に福祉施設から財産を引き出すよう強要し始めたのです。それは暴力に発展し最初の逮捕となりました。平成30年の逮捕も同じようにして起きたものです。

二度の逮捕にも懲りず、彼はまた母親から金を奪おうとしていました。

彼は福祉施設にも何度も電話をかけ生前贈与の申し入れをしています。生前贈与の手続きは本人でないと出来ないため断られましたが、その時に彼は電話でこんなことを言っていました。

「早く母親に死んでほしい」

「早く財産を引き渡してほしい」

彼の暴行が発覚したのは福祉施設にかかってきた母親からの電話がきっかけでした。その用件は「福祉施設に預けている財産の一部を引き出したい」というものでした。電話に出た職員はこの家庭の事情を知っていたため

「それは息子さんに頼まれてのことですか?」

と確認をすると

「そうなんです。息子に言われて…」

という返答が返ってきました。この時です。何かを叩く音とともに

「痛いっ!」

という母親の悲鳴が聞こえました。この時のことを彼は

「自分の指示で電話をしてることは言わないように言ったのに母がそれを守らなかったので、頭にきて殴ってしまいました」

と話しています。職員は母親の悲鳴を聞いてすぐに110番通報しました。

検察官の質問は怒りが滲み出ているものでした。

――あなたは自分のお母さんを財布だとでも思ってるんですか?

「思ってませんけど、何も考えずに叩いてしまいました」

――何も考えず、意味もなく叩いたんですか?

「病気のせいにしたくないですけど病気なんですよ。普通の人と違うから」

――病気って、今までに何回も入院を勧められたでしょ? 治す気があるなら入院しますよね? 拒否したんでしょ?

「入院はしたくなくて…」

――前は携帯電話を投げつけてケガをさせたんですよね?

「そう…でしたかね」

――逮捕されたのに覚えてないですか?

「覚えてないです」

――この時は『反省してる』って言ってましたよね?

「覚えてないです。でも今回は反省してます」

――口で『反省してる』って言っても、また忘れちゃいますよね?

「今回は忘れないです。絶対忘れません」

――何故『忘れない』と言えるのか、その根拠が私には全くわかりません。もういいです。質問終ります。

一方で、被害者となった母親は取り調べでは彼のことをかばうような供述に終始しています。

「あの子は小さい頃から本当に優しくて面倒見がよくて、人とケンカしたり傷つけたりなんてしない子です。本当に感謝してます」

第三者から見れば金目当てに高齢者を虐待している事件です。しかし、その当事者となった母親は被告人を守ろうとし続けました。

彼は精神障害を抱え、生活保護を受けながらの生活で疲れ果て、困窮していたことは想像に難くありません。

この裁判は懲役6ヶ月、執行猶予3年付きの判決がくだされました。

裁判が終わればこの親子は再び日常に戻ります。また虐待が繰り返される可能性は高いと思われます。そしてそれを止める術は第三者にはありません。

彼は取り調べでこんな供述をしていました。

「どちらかが死ななければ暴力はおさまらない気がします」

これもまた、家族の形の一つです。(取材・文◎鈴木孔明)

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