「読んでほしい」 コロナが壁に 長崎県出身 小説家・馳月基矢さん 「姉上は麗しの名医」刊行

馳月基矢さん(本人提供)

 長崎県出身の新人小説家、馳月基矢(はせつきもとや)さん(35)のデビュー作「姉上は麗しの名医」(小学館時代小説文庫)が4月に刊行された。テンポのよい時代活劇だ。しかし発刊が新型コロナウイルス特措法に基づく緊急事態宣言の期間と重なり、多くの大型書店は臨時休業。新刊として書店からプッシュしてもらう機会を失う形となった。「読んでほしい」-。馳月さんは会員制交流サイト(SNS)を通じて厳しい出版の現状や新作のことなどを発信している。

馳月さんのデビュー小説「姉上は麗しの名医」

 馳月さんは五島市奈留町生まれ。下五島、上五島で育ち、子どもの頃から学校の図書室で児童文学に親しんだ。県立長崎北陽台高を卒業。京都大文学部で東洋史学を専攻し、五島を含む東シナ海海上交通をテーマに研究した。同大学院修士課程修了後、京都でフリーターをしながら小説を書き、2019年「第1回日本おいしい小説大賞」(小学館主催)に別名で応募。小学5年生が主人公で、舞台は五島列島だった。この作品が最終選考に残ったことがきっかけとなり、編集者から時代小説執筆の打診があった。江戸時代のフィクションは初めての挑戦だった。
 少年らに剣を指南する瓜生清太郎は犬の大量死事件を耳にする。一方、同心の藤代彦馬は医者が毒を誤飲した死亡事件に携わる。彦馬が知恵を借りるべく相談したのは、清太郎の姉で腕の立つ女医真澄。事件解明に真澄は独自に動きだす-。馳月さんは、大学時代に培った知識を駆使。物語の鍵を握る架空の「日島藩」は五島をモデルに書き上げた。だが新刊として売り出すタイミングが書店の休業期間と重なってしまい、「大変苦しい状況になった」。
 同様の作家たちは他にもいた。ツイッター上では「#2020年4月刊応援」とハッシュタグ(検索目印)を付けた投稿が広がりを見せ、3月刊、5月刊の応援にもつながった。こういった動きの中、時代小説を普段読まない人が購入して読んでくれたこともあったという。馳月さんは「緊急事態宣言中に出た本を買って、応援していただきたい」と話している。
 「姉上は麗しの名医」は小学館刊、文庫判、279ページ、770円。電子書籍版もある。

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