その72 非認知能力を育てる時期

「3歳までが大切!」「5歳で学力が決まる!」など、日本では幼児教育の重要性が強調される一方で、その後の教育が軽んじられている傾向があります。「三つ子の魂百まで!」「6歳で頭脳の90%が作られる!」「非認知能力は5歳で決まる!」という話を聞けば、慌てて幼児教育をしたくなる気持ちは理解できます。

かくいう私も、長年幼児教育に携わっていますから、幼児教育の効果がいかに大きいかということは、十分に認識しています。幼児期の子どもの脳はスポンジのように柔軟で、遊び感覚で何でも簡単に身に付けることができます。

小学校時代を通して 続けることが大切

しかし、教育は「6歳で終わり」ではないのです。幼児教育は子どもの可能性を広げる「種まき」に過ぎません。子どもの能力や才能を高い資質として定着させるには、6歳を過ぎてからも栄養を与え、励まし続けることが必要です。

幼児教育の「もろさ」が分かるのが「英語」です。父親の転勤に伴って英語圏に移り住んだ時、家族の誰よりも早く英語を身につけるのは4歳児です。

2年もプリスクールに通えば、完璧なネイティブ発音で流ちょうに英語を話すようになります。ところが、6歳になって日本に帰国し、日本の小学校に通い始めると、ペラペラだった英語をあっという間に忘れてしまうのです!

英語を一生使える能力として定着させるには、子どもが「自主的なやる気」を持って英語の本を読み、英語で思考し、英語で表現する訓練を「継続」しなければなりません。幼児の時に英語ペラペラだったから英語は身に付いただろうと、その後の教育を怠れば、英語を高い能力として定着させることは、できないのです。

エリク・エリクソンの ライフサイクル理論

心理学者のエリク・エリクソンは、人間の成長には段階的なステージがあり、それぞれのステージにおいて乗り越えるべき課題を「どう克服したか」もしくは「克服できなかったか」が、その後の人間形成に影響を与えるという「ライフサイクル理論」を提唱しました。エリクソンによる段階的ステージと克服すべき課題は次の通りです。

① 乳児期(0歳〜2歳) 課題…基本的信頼感

② 幼児前期(2歳〜4歳) 課題…自律性

③ 幼児後期(4歳〜6歳) 課題…自主性

④ 児童期(6歳〜12歳) 課題…勤勉性

⑤ 青年期(12歳〜20歳) 課題…アイデンティティ

⑥ 成人期(就職〜結婚) 課題…親密性

⑦ 壮年期(子育て時期) 課題…世代性

⑧ 老年期(リタイア期) 課題…統合性

エリクソンは4歳〜6歳に克服すべき課題を「自主性」、そして6歳〜12歳の課題を「勤勉性」と定義しています。「自主性」とは自発的な「やる気」で物事に取り組む態度。「勤勉性」とは自分の課題に挑戦し、それを成し遂げることで「喜びを見いだす経験」です。

これは見方を変えれば「非認知能力を獲得していく時期」と言えるのではないでしょうか。幼児期から児童期にかけて勉強と習い事に真剣に取り組み、学力と非認知能力の両面を伸ばす。これが達成できれば、子どもは「たくましい自己」を確立していくことができるのです。

船津徹 (ふなつ・とおる)

TLC for Kids代表 教育コンサルタント

1990年明治大学経営学部卒業。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。 しちだ式教材制作に従事。2001年ハワイ州ホノルルにてグローバル教育を行う学習塾TLC for Kidsを開設。 2015年にTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校開設。2017年上海校開設。 アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上のバイリンガルの子どもの教育に携わる。 イエール大学、ペンシルバニア大学など米国のトップ大学への合格者を多数輩出。 著書に「すべての子どもは天才になれる、親(あなた)の行動で。」(ダイヤモンド社)、「世界で活躍する子の〈英語力〉の育て方」(大和書房)。

© Trend Pot NY,LLC