コロナ禍でも “サザエさん幻想”から抜け出せない、3列シートミニバンの売れ行き

 日本の自動車市場では「ハイブリッド車(HV)かミニバン、そして軽自動車しか売れない」と言われて久しい。なかでもミニバン・カテゴリーは、1994年に登場してヒットした初代ホンダ・オデッセイ、そして初代ホンダ・ステップワゴン以来、“ブーム”が続く。

 しかし、街を走る数多くのミニバンを見る限り、フル乗車で走っているミニバンを見かけることは極めて稀だ。にもかかわらず、この3列シート志向は現在まで続いており、「せっかくクルマを買うなら、3列目も……あったほうが」という、“幻想”を超えた“強迫観念”に近い感覚が、ブームの一端を牽引しているといえそうなのだ。

 フジテレビのアニメ「サザエさん」が初めて放映されたのは、50年も前。いまでも日曜日のゴールデンタイムで放映される長寿番組で、日本人は、サザエさん、その両親・磯野ナミヘイとフネ、サザエさんの弟妹・カツオにワカメ、そしてサザエさんの夫・マスオさんに子供(孫)のタラちゃん。3世代そろって一家7人“和気あいあい”という幻想が捨てきれないようなのだ。……だから3列シートのミニバンは売れる?  “サザエさん幻想”ともいえる日本人特有の貧乏性というか、「いっぱい乗れたほうがお得!」的な考え方があるようだ。

 コロナ禍で販売が半減した2020年5月の乗用車(登録車)販売台数を見ても、1位がトヨタ・ヤリス1万0338台、2位がトヨタ・ライズで7916台、3位のホンダ・フィットが7235台とコンパクトHBがベスト3位だが、4位のカローラに次いで、5位にトヨタの高級ミニバンのアルファード(5750台)、6位にシエンタが4344台で続き、7位にルーミー(3713台)、8位にフリード (3612台)と、何とベスト10に4台のミニバンが登場している。

 ミニバン人気には逆らいようがない、これは現実だ。しかし、ほとんどの場合、3列目シートは荷室と化しており、シートを床下収納が出来るモデルの場合なら、3列目はほぼ永久収納されたままだ。理由は明らかで、使わないからだ。

 家族4人でキャンプなどのアウトドア・レジャーに出かけるにしても、3列目シートを立てたままでは荷室容量がまったく足りず、必然的に3列目は収納。事実上のワンボックス車、荷物グルマと化しているわけなのだ。

 このようななか、3列シートミニバンのレイアウトを見直す動きも出てきた。トヨタの小さなミニバン、シエンタに従来からラインアップされた3列シートの6・7人乗り仕様に加えて、2列シートの5人乗り仕様が加わった。5人乗り仕様は、何と言ってもラゲッジルームの使い勝手が優れているのが特徴だ。3列シート・ミニバンよりも、ラゲッジルームの容量もアップし、2?4名で使うことを想定したレジャーカーとしてぴったりな1台といえる。

 コンパクトな5ナンバーサイズのミニバンに2列シートを採用した元祖モデルはホンダ・フリード+だ。ホンダは昨年、そのフリードをマイナーチェンジし、内外装デザインを刷新するとともに、クロスオーバースタイルの新グレード「FREED CROSSTAR(クロスター)」を追加した。

 “サザエさん幻想”を抜け出した、この2台を皮切りに、使い倒せる2列シート5ナンバーミニバンの新型車登場を待つユーザーは少なくない。加えてアルファードなど豪華版の大型ミニバンは、VIP用のフォーマルセダンに換わる可能性を秘めている。事実、TV報道映像などで見ると、東京都知事の小池百合子氏は時にアルファードで登庁する。この豪華ミニバンを2列シート仕様として、広い2座の後席を持ったリムジンとしての用途は今後大いに有望なカテゴリーだ。

 恰好よく女性VIPがショーファードリブンのフォーマルサルーンに乗り降りするには、永遠の妖精といわれたオードリー・ヘップバーンのような華麗な足捌きがいるが、アルファードなら小池さんでも何とかなりそうですからね。今後のミニバンは、“サザエさん幻想”から抜け出したVIPカーへの変身もアリか?(編集担当:吉田恒)

2020年5月、コロナ禍で国内自動車販売が半減するなか、乗り出し価格500万円超の高級ミニバン、トヨタ・アルファードがミニバン販売ナンバーワンを記録

© 株式会社エコノミックニュース