マスク届きました

 〈…他の選手が全てゴールした後も彼のレースは終わらなかった。1周、2周…競技場はやがて拍手と大歓声に包まれていく…〉-1964年の東京五輪、陸上競技の男子1万メートルが題材の物語は、国語の教材でご記憶の方もおられるだろう▲どんなに離されても遅れても最後まで投げ出さない-その強さ、美しさは十分に知っているつもりだ。でも、やっぱり、これはひどい。同じ“周回遅れ”でこうも違うものか。政府支給の布マスクが届いた▲未着の皆さんのために-。添付のお便りの書き出しは〈みなさまへ…緊急事態宣言が出されました〉。えっ、何を今さら。民間同士の請負仕事ならばこの一語だけでも代金請求がためらわれるレベルの大事故だ▲配布が滞ったのは異物の混入や回収も大きな理由だろう。その時点で一人も気づかなかったのだろうか、口には出せなかったのだろうか。これ、届きませんよ、文面まずくないですか、絶対に笑われます…疑問でならない▲お便りは続く。〈既に自分は感染者かもしれないという意識を…〉-私たちには「自分を疑え」と要求しながらも、自分たちの仕事は疑わないらしい▲想像力や柔軟性に欠け、どこを向いているのか疑わしい政府の仕事ぶりをそのまま配達された気分だ。たった2枚のマスクが変に重い。(智)

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