小5からバッテリー、2人の覚悟 長崎県高校野球大会へ 長崎商・一ノ瀬、相川

小学5年からバッテリーを組む一ノ瀬(右)と相川。甲子園はなくなったが、最後の夏に完全燃焼を誓う=長崎市、長崎商高野球場

 1920年の創部から今年で100周年となる長崎商野球部。エース左腕の一ノ瀬幸稀と主将で捕手の相川晃甫は、この伝統校で県内屈指のバッテリーに成長した。小学生のころからずっと一緒に白球を追い続け、甲子園だけを夢見て迎えた高校最後の夏。コロナ禍で失われた舞台の「代わりはない」が、2人は「完全燃焼」を誓って“本番”に臨む。
 そろってメンバー入りした昨夏。長崎商は2年連続第1シードで臨んだが、準決勝で敗れた。優勝した海星の江越永輝と植木大智のバッテリーは西有家中時代の先輩。甲子園の舞台に立った2人の姿は輝いて見えたが、胸中は複雑だった。「来年こそは自分たちが」。そう強く思った。
 新チームで挑んだ昨秋の県大会。準々決勝で創成館に0-1で敗れ、春の選抜出場を逃した。九回1死から相川が長打を放ったものの、三塁タッチアウト。クロスプレーに泣いた。その創成館は九州大会で4強に入り、甲子園切符をつかんだ。昨夏に続く“あと一歩”の悔しさ。この夏はラストチャンスだった。
 だが、厳しい冬の練習が明けても試合は始まらず、5月20日、夏の甲子園中止が決定。泣き崩れた。「その日は練習にならなかった」(相川)。その夜、主将として考え込んでいたとき、一つ上の先輩の桝屋優太郎からLINE(ライン)が入った。「何て言ったらいいか分からんけど、おまえが腐ったら、チームも腐る」。分かってはいたことだったが、背中を押してもらえた。覚悟が決まった。
 翌朝、西口博之監督に「後輩と話をしたい」と申し出て、昼休みに1、2年生に“お願い”した。
 「3年生は最後までしっかりやる。おまえたちもついてきてほしい」
 その日は西口監督にとっても忘れられない一日になった。「こうも変わるのかというほど練習の表情が違った。背中を示そうとしていた。1、2年生のノートには“3年生はすごい”とあった」
 開催が決まった代替県大会を制しても、甲子園はない。それでも、相川は「勝つ野球を体現する。優勝しか恩返しはないと思っている」、一ノ瀬も「優勝して、いい思い出にしたい」と頂点だけを見据えて、例年通り自らを追い込んでいる。
 小学5年の時にソフトボールで初めて、一ノ瀬が投げて、そのボールを相川が捕った。あれから約7年。「信頼しきっている」「この球を投げたいんだろうなというのが分かる」
 誰にも負けない「あうんの呼吸」と伝統校で磨かれた心技体。その集大成を存分に披露しにいく。

 


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