拉致被害者親世代ついに2人だけ 有本恵子さん父・明弘さんに聞く

日朝首脳会談が行われた2002年9月17日、「吉報」を待ちつつ会見する横田滋さん(右)と有本明弘さん。この後、北朝鮮がめぐみさんと恵子さんらを「死亡」と発表したことが伝えられた=東京

 北朝鮮に拉致された横田めぐみさん=失踪当時(13)=の父滋さんが5日に87歳で死去したことを受け、拉致被害者有本恵子さん=同(23)=の父明弘さん(91)=神戸市=が7日、新潟日報社のインタビューに応じた。2月には妻嘉代子さんが94歳で亡くなった。未帰国の政府認定拉致被害者家族の「親世代」で存命なのは、めぐみさんの母早紀江さん(84)と明弘さんだけになった。「ついに2人になってしまった親世代に限らず、北朝鮮にいる拉致被害者と特定失踪者も高齢化し、残された時間が少ないことを想像してほしい」。政治、世論に強く訴えた。

 -嘉代子さんに続き、滋さんが死去されました。

 「滋さんも、うちの家内も、力尽きて天に召されてもうた。2人とも若死にではない。寿命だ。ついに間に合わなかった。長年、拉致問題が放置されてきたツケではないか。無念だ」

 -滋さんと明弘さんは、1997年の家族会結成以来のお付き合いです。

 「83年に拉致された恵子が北朝鮮におると分かったのは88年だった。その後、わしと家内は外務省を訪ねたり、マスコミに訴えたりしたがほとんど無視されてきた。だが(家族会ができると)同じ境遇の家族がまとまったことで(発信)力が強くなり、(政治にも世論にも)訴えが少しずつ届くようになった。恩人や」

 -2002年9月17日の日朝首脳会談。会談直前まで「少なくとも恵子さんとめぐみさんは生存」とのうわさがありましたが、北朝鮮発表は「死亡」でした。

 「いい加減な情報をそのまま持ち帰り、伝えてきた政府には腹が立った。その後、横田家もうちも、娘を取り返すというだけでなく、『死んだ』とされた被害者を“生き返らせる”ための闘いが始まった。きつかったが、横田家の存在がどれだけありがたかったか。家内もよく言うとった」

 -「親世代」で存命なのは明弘さんと、早紀江さんの2人だけとなりました。

 「横田家もうちも、生きている間に娘に再会できればと頑張ってきた。ただ、わしも(数年前に心臓の病気で)手術しており、いつぽっくりいくか分からん」

 「仮にわしが娘に会えないまま(寿命が)尽きたとしても、悲しいけど、それも運命や。ただ、北朝鮮に残る多くの拉致被害者と特定失踪者はどうなるんや」

 -安倍晋三首相は昨春、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と「条件を付けずに直接向き合う」意向を示しました。

 「新型コロナウイルスで世界中、大変なことになっている。そんな中でも、北朝鮮で待ち続けている拉致被害者らを早く救出せなあかん。(米大統領の)トランプさんとともに、あの国を動かすために、安倍さんには行動していただきたい」

(聞き手=論説編集委員・原 崇)

© 株式会社新潟日報社