コロナ禍の子どもの食と学び支えよう! 東京の下町で住民パワー結束

 新型コロナウイルスで危機にさらされた子どもたちの食と学びを、住民の力で支えようー。東京都荒川区の「あらかわ子ども応援ネットワーク」が、困窮家庭への食料配布をはじめ多様な支援活動を展開している。民、官、学の垣根を越えて集まった30以上の団体が情報を交換し、行動するプラットフォーム型の組織。若い世代はITを使ったオンラインでの子どもの居場所づくりにも挑戦。下町のボランティアが、それぞれの得意分野を生かし、世代を超えて力を合わせている。(共同通信=橋田欣典)

食料を詰めた段ボールを載せ、家庭に配布するあらかわ子ども応援ネットワークの大村みさ子代表(左)ら=5月27日、東京都荒川区

  ▽路地裏の配布

 5月27日、小さな家やアパートが密集する路地裏を、キャベツ、大根といった野菜や果物、卵、豆腐などの詰まった段ボールを載せた台車が進んだ。カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した「万引き家族」の撮影現場となった地域。台車を押しているのは、あらかわ子ども応援ネットワーク代表の大村みさ子さん、スタッフの鈴木訪子さん、そして野菜を寄付した会社からボランティアで参加した廣畠諭さんだ。「このあたりは道が狭くて、車じゃ運べないんです」という。

 路地に面した玄関で食料を受け取った40代女性は「ひとり親家庭で、仕事もない状態。助かるという言葉が先に出る」と、マスクの上の瞳を輝かせる。小6の男の子は、大村さんらが運営する、子どもの居場所が「いつ始まるの」と待ち遠しそうに問いかけた。子どもの居場所は、大人が見守る中で、子どもたちが一緒に遊んだり、勉強や弁当を食べたりできる場だ。別の集合住宅では、ひとり親の30代女性が「ありがとう」と包みを受け取った。女性は育休で、女の子はまだ1歳になっていない。「子どもを連れてスーパーに行けない。メールで食料配布の情報を送ってもらった」と笑顔を見せた。

 子ども応援ネットは「子どもを真ん中に、みんなで手をつなごう」をモットーに3年前結成。生活や学習に苦しむ子どもと家庭の支援に当たってきた。参加団体は子ども食堂や教育支援団体、区役所、区教育委員会、大学などさまざま。この日は車も使い、78世帯に食料を配った。4月末から4回の配達で配達したのは延べ261世帯。包みの中にはボランティアの手作りマスクも入っている。

 ▽停滞破った善意

 4月7日の政府の緊急事態宣言以降、子ども応援ネットの多くの団体は会合すらままならず、活動がストップしていた。その停滞を破ったのは荒川区出身で、現在足立区で青果卸会社を営む男性の善意だった。飲食店の休業で売り先を失った食材を子どもたちに役立ててほしいと、自社で買い取り寄付した。提供を受け、こども応援ネットは家庭への配布を開始。別の食品会社からはインスタント味噌汁や、飲料、缶詰の支援が寄せられ、インターネット企業は子ども応援ネットに30万円を助成した。特別定額給付金に相当する10万円ちょうどの個人寄付も次々と届き、食料配布は続けられた。

 日雇い労働者が集まる山谷地区を中心に困窮者らへの食事提供、医療相談をしている一般社団法人「あじいる」も、資源回収した段ボールの売却代金の一部を子ども応援ネットに提供した。回収するのは路上生活体験があるメンバーら。あじいるのスタッフ、荒川茂子さんは「困窮者が参加して地域との関わりをつくっていくことに意味がある」と話す。

 子ども応援ネットでは、「こんなに困っている家庭がある」と団体間で情報交換し、区の社会福祉協議会が調整して配達先を決める。料理ができる人がいる家庭には生の食材を。調理ができない家庭には手がかからないものをと中身を変える。送料を節約するため、ボランティアが台車や車で街を回っている。

「子どもたちに食べてほしい」と寄付された食料を前にするあらかわ子ども応援ネットワークのスタッフ=5月27日、荒川区

 大村代表は「行政がコロナ対策で思い悩んでいる間に、情報が早く入り、助けを求めることすら難しい家庭を口づてで結びつけることができた」と話す。食品の一部は隣接する台東区や北区の子ども食堂にも提供した。

 ▽オンラインで居場所づくり

 5月28日、子ども応援ネットに参加する団体の会議が開かれた。区の担当者は、支援する子どもたちへの弁当代補助を1人当たり300円から500円に引き上げる方針を説明。参加者からはパントリー(食料配布の場)を設けたいという要望や、「そろそろ子ども食堂を再開したい」など緊急事態宣言解除後の取り組みについて表明があった。 

 会議にはNPO法人「バイタル・プロジェクト」副理事長の檜澤大海さんも出席した。都電・三ノ輪橋駅に面した居酒屋を休みの日にスペースとして活用し、3年間子どもの居場所を開いてきた。コロナ禍の中では、大学生ボランティアとオンラインでの居場所づくりを試験的に実施している。

 土曜日の昼下がり、檜澤さんと店のオーナーの林和広さんがパソコンのビデオ会議アプリを開くと、学生と参加の呼び掛けに応じた幼い兄妹が登場した。「他己紹介ゲーム」など大学生が工夫を凝らした遊びを提案し、子どもたちがスマホを通じて楽しそうに参加した。男の子は自分が世界の国旗をたくさん知っていることを自慢する。

都電停留所前の居酒屋を拠点に子どもたちのオンライン居場所づくりに取り組む檜澤大海さん=29日、荒川区

 これまで4回、試験実施を行った。大学生からは「できるかなと思ったが、やってみたらできた。めちゃくちゃ可能性が広がりそうだ」「一方的に教えるのではなく、一緒に何かをやる場になった」など前向きな意見が聞かれた。檜澤さんは「オフラインではつながりにくい、ひきこもりの子どもたちも参加できる居場所ができるのではないか。区に提案したい」とオンライン居場所づくりは有効な手段であると可能性を感じている。

 ▽草の根のコロナ禍克服

 あらかわ子ども応援ネットワークは2019年度に地方46紙と共同通信が実施した第10回地域再生大賞の準大賞を受賞した。この10年間に受賞した各地の500団体が、草の根からコロナ禍克服に取り組む様子が明らかになってきている。

 第8回優秀賞を受賞した子どもの居場所「にじの森文庫」(那覇市)は、4月初めから5月20日まで、休校で給食がなく困っている子どもに弁当を無料提供した。毎日50~100個の弁当をつくった館長の金城辰美さんは「母親たちとの距離が近くなり、家庭の姿が見えてきた」と話す。勤め先が休業になったひとり親の子どもが「お母さんが一緒に家にいてくれるのがうれしい」と言った言葉が心に残るという。支援を通じて家族の切実な暮らしも浮かび上がる。

 ホームレスとなった人々の自立を支援してきた「抱樸」(北九州市)=第5回優秀賞=の奥田知志理事長は4月末、1億円目標のクラウドファンディングを始めた。コロナ禍の中、住所がなく行政の支援が届かない人々を、全国各地の組織と連携して支援するためだ。マスク、食料の調達に始まり、住居や仕事の提供まで目指す。寄付、使途の状況は逐次、ネット上で公開。奥田さんは「私たちは見捨てない」と訴える。

 全国各地で地域づくりに成果を挙げてきた人々が、コロナに「負けない」取り組みをどう展開し、社会の変化に対応しようとしているのか。若い世代の動きを含め、現場の視点と広い視野から伝えたい。

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