内野より広い外野はなぜ3人で守るのか? 昔の球場はフェンスなしの“球拾い”

現在はマリナーズ会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチロー氏【写真:Getty Images】

19世紀半ばの野球場には、外野フェンスは存在せずランニングホームランが続出

野球のダイヤモンドは27.43メートル×27.43メートルだから、752平方メートルだ。内野手が守るエリアはダイヤモンド周辺のおよそ2500平方メートル、これに対し外野手が守るエリアは5000平方メートル前後と言われる。内野は4人で守るのに対し、2倍もある外野は3人で守る。なぜこうなったのだろうか?

端的に言えば、内野手と外野手では「期待される役割」が違っていたから、ということになるだろう。

19世紀半ばの野球場には、外野フェンスは存在しなかった。野球場を取り巻く人々が人垣を作り、それが自然にグラウンドの外周になっていたが、外野手の頭を越したり、間を抜けたりし打球はどこまでも転がっていくことになった。そのころの本塁打はすべてランニングホームランだった。

当時の外野手の一番大事な役割は「ボールを遠くにいかないようにする」ことだった。しかし、大飛球が飛ぶたびに試合が中断するのは時間の無駄だし、ボールを失うリスクもあったので、外野フェンスができ、これをノーバウンドで越せばホームランというルールができたのだ。

1864年までは、野手はワンバウンドまでで打球をキャッチすればアウトだったが、素手で守っていたために、外野手が打球をアウトにする率は低かった。つまり外野に飛んだ打球は、安打になることが多かった。当時の外野手の大事な役割は「安打を長打にしないこと」だった。打者をアウトにするのは主として内野手の役割であり、そのために狭い内野に多い人数を配し、広い外野にはより少ない人数を配するようになったのだ。

19世紀末から野手はグラブをはめて守備に就くようになり、フライを捕ることが容易に

11人で野球をやっていた時代は内野手は5人、外野手は4人だった。9人制になってからは内野手4人、外野手3人になった。当時の外野手は内野手より人気がないポジションであり、守備がうまくない選手がなることが多かった。

しかし、19世紀末から野手はグラブをはめて守備に就くようになり、フライを捕ることが容易になった。それとともに外野手にも高い能力や技術が求められるようになった。また、この時期から左利きの優秀な打者が登場するようになった。タイ・カッブのように当時から右投げ左打ちの打者もいたが、トリス・スピーカーやベーブ・ルースのように左投げ左打ちの強打者も多かった。

野球では左利きの野手は一塁か外野しか守ることができない。それもあって外野を強打のスター選手が守ることが多くなり、外野手のステイタスは高まったのだ。外野手の中には俊足を飛ばして大飛球をキャッチする選手も増えて、それが野球のだいご味になった。また強肩の外野手が、走者を刺すプレー(補殺)も、見せ場となった。

しかしながら、今に至るも外野に飛んだ打球は、内野に飛んだ打球よりも圧倒的に安打になる確率は高い。記録サイト「Baseball Reference」によると2019年のMLBでは、内野には5万7309本の打球が飛んだが、安打は4452本。打率は.079だった。これに対し外野は6万8206本の打球が飛び、安打は3万7538本。打率は.560だった。安打のうち内野安打は10.6%、9割近くが外野に飛んだ安打だった。

野球の草創期と同じく、今の外野手にとっても「安打を長打にしないこと」は重要な仕事になっている。

1972年の日本シリーズでは王貞治の打席で外野4人シフトも

外野のアウトになる確率を高めるために、内野手を減らして外野手を増やすことは、現実的ではない。たとえ外野を4人にしたところで、外野に飛ぶ打球の安打率を劇的に下げることは難しいからだ。むしろ1人減った内野の安打率が激増すると考えられる。アウトにしやすい内野により多くの野手を配する方が合理的なのだ。

しかしながら状況によっては外野を4人、内野を3人にするような臨時のシフトが組まれることがある。

1972年10月21日に後楽園球場で行われた巨人と阪急の日本シリーズ第1戦、王貞治の第2打席で、阪急の西本幸雄監督は、遊撃手の大橋穣を中堅手の守備位置で守らせ、本来中堅の福本豊を右中間に配した。左翼手ソーレル、右翼手長池徳二も含めた4人で外野を守ったのだ。この打席で王は山田久志からバックスクリーン近くまで飛ぶ大飛球を打った。これをフェンス際で大橋が捕球。守備記録は、捕球の位置ではなく打球を処理した野手につくので、大橋は100メートルオーバーの大きなショートフライを処理したことになった。

内野手4人、外野手3人という伝統的なシフトは今、大きく変化しつつある。

MLBでは打球の飛んだ位置をプロットし、それに基づいて打者ごとに飛びそうな位置にあらかじめ野手が移動して守る「守備シフト」を敷くのが一般的になった。左の強打者が打席に立てば一、二塁間に5人の野手が並ぶシフトが普通に行われるようになった。こうしたシフトでは、外野手が内野ゴロを処理することも珍しくない。また内野手が外野フライを捕球することもある。

野球というゲームは、ルールは同じであっても仲は大きく変わっている。今は外野手の概念も揺れ動いていると言えるだろう。(広尾晃 / Koh Hiroo)

© 株式会社Creative2