「第三者委員会」は中立ではない!

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大きな会社や組織で不祥事が起きると、しばしば「第三者委員会」が設けられる。一応、中立的な立場とされる有識者が委員になって調査検証作業が行われ、そのうち報告書が出る。不祥事の背景や原因、なぜ防止できなかったか、再発防止策などが公にされ、何となく一区切りついた形になる。

本書『「第三者委員会」の欺瞞――報告書が示す不祥事の呆れた後始末』 (中公新書ラクレ)は、そうした第三者委員会の調査や結論が当事者寄りになっているのではないか、と検証し、現状の問題点を洗い出したものだ。「真相究明どころか追及からの"隠れ蓑"!?」と帯にうたっている。

これまでに21の報告書を分析

著者の八田進二さんは会計学者。1949年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了、慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(プロフェッショナル会計学;青山学院大学)。現在、金融庁企業会計審議会委員、金融庁「会計監査の在り方に関する懇談会」メンバー、文部科学省「学校法人のガバナンスに関する有識者会議」委員などを務める。著書に『鼎談 不正――最前線』『開示不正』『会計・監査・ガバナンスの基本課題』『これだけは知っておきたい内部統制の考え方と実務』など多数。

八田さんは上記のように中央官庁の審議会メンバーも務めているが、「第三者委員会報告書格付け委員会」の委員でもある。これは2014年に発足した自主的な会で、委員長は有名な久保利英明弁護士。そこに唯一、会計専門のプロフェッショナルとして加わっている。現在のメンバーは9人。弁護士5人、ジャーナリスト2人、法科大学院教授1人と八田さんだ。

これまでに21の第三者委員会報告書を分析し、メンバー各自が5段階評価、すなわちA~Dの4段階評価と不合格のF評価を行い、結果を公表している。本書ではその中から10の報告書について改めて取り上げ、評価の概要を説明している。つまり「第三者委員会」の活動を検証している。

ただし、本書で記されているのはすべて八田さんの見解であって、委員会の考えや意見を代表するものではないと断っている。

委員長は「ファミリー」の一員

本書で一番読まれるのは、185ページに掲載されている21の報告書についての採点表だろう。「格付け委員会」による格付けの結果だ。全員が「F」を付けた報告書が二つある。

一つは厚労省「特別監察委員会」による「毎月勤労統計調査」に関する報告。2018年末に厚労省の毎月勤労統計をめぐる不適切な扱いが発覚した。翌19年1月には特別監察委員会が設けられ、早々と6日後に報告書を公表。しかし、聞き取り調査の多くが、この委員会のメンバーではなく、身内の同省職員だけで行われていたことが明らかになり、世間や与野党から批判を浴びて再調査、翌月、追加報告書が公表された。

国家レベルの不祥事を調べるこの委員会には、法曹界を中心とした錚々たるメンバーが名を連ねた。しかし、委員長の樋口美雄氏は、独立行政法人労働政策研究・研修機構理事長。厚労省から年間24億円を超す運営費交付金をもらって活動している同省所管法人のトップだ。同省の前統計委員会委員長で、労働政策審議会の会長も務めた人でもある。八田さんはまず、そこを手厳しく糺す。

「ずぶずぶの利害関係者、『厚労省ファミリー』の一員というしかない人物で、第三者委員会の委員長として適格でないのは、明白だ」
「『その道のプロ』が顔を揃えていたとしても、『独立性』『中立性』を欠いた組織に、事実関係や責任の所在を明確化するためのまともな仕事ができると考えるのは甘い」

もう一つの格付け最低点は、東亜建設工業の地盤改良工事の施工不良に関するもの。このほか朝日新聞の「従軍慰安婦報道」、神戸製鋼の「検査結果の改ざん」、日産自動車の「不適切な完成検査の実施」、日本オリンピック委員会の「東京オリンピックの招致活動」に関する報告書も評価が低い。逆に点数が高かったのは、雪印種苗の「種苗法違反」の報告書だ。

山一證券が先例

第三者委員会というのは、外国の先例をまねしたものではなく、意外にも日本オリジナルな制度なのだという。ルーツと言われているのが、1997年12月、山一證券に設置された「社内調査委員会」だ。損失隠しが大問題になり、常務が委員長になって、社外の弁護士も招いて検証作業をした。98年4月に報告書を公表している。当時としては前例がなかった。この時の委員会メンバーに入っていたのが、國廣正弁護士。現在は、「格付け委員会」のメンバーになっている。

2000年代に入って、第三者委員会がどんどん増えた。2010年には日弁連が第三者委員会についてのガイドラインを公表している。数が増えたことで、本来の趣旨から逸脱している委員会が多くなったためと思われる。依頼者側に有利な取り計らいをするケースを念頭に、「経営陣の傀儡に過ぎないこともある」と歪みを指摘していた。

2011年にはオリンパスの不正会計事件が表面化した。オリンパスは内視鏡で圧倒的な世界シェアを誇る会社だった。日本政府としても、つぶすわけにはいかない。ここでも第三者委員会は「見事に『有効活用』された」と八田さんは皮肉る。

そうした流れの中で14年にスタートしたのが「格付け委員会」だ。手弁当の作業。HPで結果を公表しているが、これまでに「第三者委員会」側から反論があったのは1件だけという。

弁護士の新たなビジネスに

少し古いが、12年には帝国データバンクが「第三者委員会の実態調査」を公表している。それによると、過去5年間に同委員会の設置件数は127社。対象事例は132件。かなり多いことを実感する。設置理由の上位5件は、「架空取引」26件、「粉飾」23件、「子会社架空取引」15件、「利益水増し」10件、「子会社利益水増し」8件と、会計ないし連結決算がらみが多くを占めた。

ところが第三者委員会のメンバーは法曹関係者が多くを占めている。いわば弁護士の「独占業務」のようになっている。帝国データバンクの調査報告もこの状況を、「異例というべきである」と総括している。実際、最近では、「第三者委員会」の業務に特化した弁護士事務所もあるそうだ。弁護士業界にとってビッグなビジネス・チャンスになっているという。本書に登場する報告書でも、単一の弁護士事務所が、委員長も委員も、まるごと請け負っているケースがある。

八田さんは、第三者委員会が「会計のプロ」を冷遇しているのは、依頼主が意図的に避けている面もあるのではないかと推測する。要するに、本当の専門家による精査を回避している可能性がある、というわけだ。

そうした経営者にとっては、本書に掲載されている「ダメな第三者委員会」の実例は別の価値があるかもしれない。低評価の報告書の委員は、依頼者寄りということになるからだ。

八田さんは本書で、問題点が少なくない第三者委員会の改善点も指摘している。まず第三者員会のメンバーは、経営陣から「独立した」立場で選任すべきだとする。また、調査にかかったコスト、とくに弁護士費用は明らかにするべきだとしている。さらに、不十分な報告書が明らかになった場合は、委員会自身も責任を問われる、というメカニズムを働かせることも必要だとも提言している。

本書は会計学者の執筆だが、会計用語が前面に出てくるわけではない。一般向けにきわめて読みやすい文章で書かれている。経営者、官僚、マスコミ関係者など多くの人に役立ちそうだ。

BOOKウォッチでは、厚労省の毎月勤労統計調査を巡る不正にいち早く気づいてブログなどで指摘していた弁護士、明石順平さんの著書『国家の統計破壊』(インターナショナル新書)のほか、関連で『会計と犯罪――郵便不正から日産ゴーン事件まで』(岩波書店)、『ケーススタディ 日本版司法取引制度 会社と社員を守る術 平時の備え・有事の対応』(ぎょうせい)、『監査役事件簿』(同文舘出版)、『かんぽ崩壊』(朝日新書)なども紹介している。

  • 書名:「第三者委員会」の欺瞞
  • サブタイトル: 報告書が示す不祥事の呆れた後始末
  • 監修・編集・著者名: 八田進二 著
  • 出版社名: 中央公論新社
  • 出版年月日: 2020年4月 8日
  • 定価: 本体860円+税
  • 判型・ページ数: 新書判・253ページ
  • ISBN: 9784121506856

(BOOKウォッチ編集部)