かつてない危機の中、国トップの説明責任はどうあるべきか コロナ禍、安倍首相の記者会見の姿勢に疑問の声

新型コロナウイルスの感染拡大を巡る安倍首相の記者会見で手を挙げる記者ら=3月14日午後、首相官邸

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)というかつてない危機にある時、対策の手を打つ国のトップは、主権者である国民にどう説明責任を果たすべきか―。安倍晋三首相は2月以降、5月25日の緊急事態宣言全面解除まで、新型コロナ対策の節目ごとに計8回の記者会見に臨んだ。国内だけでなく、海外からも注目を浴びる重要な場だったが、質問を短時間で打ち切ったり、十分に回答しなかったりする姿勢に、多くの疑問の声が上がっている。(共同通信=鈴木拓野、松井健太郎)

 2月29日、安倍首相は官邸で開いた記者会見で、全国全ての小中高校を臨時休校にする方針について国民に理解を求めた。会見の時間は36分間。そのうち、冒頭の約20分間は首相の発言が占めた。教育という国民生活に密着した分野での唐突な要請だっただけに、さまざまな疑問が浮かんで当然と言える状況だったが、質問はたった15分程度で打ち切られた。

記者会見する安倍首相=2月29日午後、首相官邸

 「まだ質問がある」。記者らは声を上げたが、安倍首相は応じることなく会見場から立ち去り、その後、帰宅した。この一連の様子がツイッターなどで話題になり、首相会見への関心がにわかに高まった。

 次は新型コロナウイルス特別措置法が成立した翌日の3月14日に開かれた会見。この時は司会がいったん質疑打ち切りを告げたのに対し、安倍首相は「まだいいんじゃない」と続行した。とはいえ、最終的には質問を求めて挙手する記者が残る中、計50分余りで会見は終わった。

 その後の会見ではさらに少し時間が延び、1時間を超えるようにはなったものの「直後に政府の対策本部が予定されている」などと終了を予告し、時間を区切るようになった。

 2月29日の記者会見に出席し「まだ質問がある」と声を上げたジャーナリストの江川紹子(えがわ・しょうこ)さんは「当初よりは時間が長くなり、司会がフリーの記者も指名するようになったのは評価できるが、節目にはもっと時間を取るべきだ」と批判する。

安倍首相の記者会見で間隔を空けて座る記者=5月25日午後、首相官邸

 出席できる記者の数も、「3密(密閉、密集、密接)」対策を理由に絞られるようになった。大手マスコミは1社当たり1人で、フリーの記者は抽選となった。江川さんは「別室と回線をつなぐなど、工夫すればもっと多くの参加が可能だ」と指摘している。弊害を取り除こうという努力が足りないとの見方だ。

 さらに、再質問が認められないことも問題視されている。質問と答えがかみわなかったり、はぐらかされたりしたとしても追及できないという問題が生じている。

 例えば、最初に緊急事態宣言を発令した4月7日の会見では「発令が遅いとの批判にどう答えるか。感染拡大を抑えられなかった原因をどう分析しているか」と問われた。首相はこれに対し、「いつ出すか専門家と毎日、議論してきた。やみくもには出せない」と述べただけで、政府の責任に直結しかねない後半の質問には回答しなかった。

 節目に記者会見を開かないケースも見られた。近畿3府県の緊急事態宣言を解除した5月21日は会見をせず、記者団が首相を囲む「ぶら下がり」形式で7分間だけ取材に応じた。この前日、検察庁法改正案で渦中の人となった黒川弘務(くろかわ・ひろむ)前東京高検検事長の賭けマージャン問題が報じられており、会見を開けばこの問題についても質問が多く出ることは必至だったと言える。

首相官邸で記者対応する安倍首相=5月21日夕

 結局、会見しなかったことで、翌22日の衆院厚生労働委員会では野党議員から「不都合な問題を聞かれることから逃げた」と批判された。

 「コロナ対策は国民の最大の関心事で、記者は国民の声を代弁している。コミュニケーション不足は問題だ」。東京大の関谷直也(せきや・なおや)准教授(社会心理学)はこう話し、一連の安倍首相の対応に苦言を呈する。

 中でも5月25日の会見では、首相が「まさに日本モデルの力を示した」と自賛した点を挙げ「緊急事態宣言解除後の経済対策ばかりが強調された半面、日本の対策のどういう点がうまくいったのか見えてこなかった。質疑応答が不十分だったため、日本モデルという曖昧な言葉が曖昧なままになっている」と指摘した。

 日本大危機管理学部の福田充(ふくだ・みつる)教授(リスクコミュニケーション論)はコロナ禍でのリーダーのあるべき姿として、ドイツのメルケル首相を好例として挙げた。「自分の言葉で語り、質疑応答もはぐらかさず丁寧だ。政治家としての信念が報道を通じて国民に共有され、民主主義において大事な安心感や信頼感を生んでいる」と説明した。

 一方で、安倍首相については「会見では生の言葉が国民に伝わる必要があるが、官僚の作文を読み上げているように見え、熱意や気持ちが伝わりにくい」と印象を語った。

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