社説:口座ひも付け なし崩しの拡大を危惧

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 国民の信頼がないままではマイナンバーの活用も広がるまい。

 高市早苗総務相は、マイナンバーと個人の預貯金口座をひも付けするため、1人につき1口座の登録を義務化する方針を示した。

 災害時などに、公的な給付金を登録された個人口座へ迅速に振り込めるようになると説明している。

 預貯金口座のひも付け案は、新型コロナウイルス対策として全国民に10万円を配る「特別定額給付金」で、振込先の申請、確認作業に手間取り、遅れている支給への不満を背景に急浮上した。

 自民、公明、日本維新の会の3党は、任意で給付用口座を登録する法案を議員立法で提出した。

 政府内でも、個人が持つ全口座のひも付けが検討課題に掲げられた。国民に警戒感のある全口座案は当面見送られたが、1口座からひも付け義務化の突破口を開く狙いが透けてみえる。

 高市氏は、口座をひも付けする関連法改正案を来年の通常国会に提出する方向で、「プッシュ型の給付や行政コストの削減が可能になる」と利点を強調する。

 だが、コロナ禍での生活支援や今後の公的給付を誘い水にし、マイナンバーを使って個人情報にかける網をなし崩しに広げていこうというのは筋違いではないか。

 多くの国民はマイナンバー制度への不安を拭いきれずにいる。開始から約4年半、国が普及に躍起になっているカードの交付率が全国で約16%(5月1日時点)にとどまっているのが証左だろう。

 情報漏えいへの懸念は根深い。今年1月、会計検査院の調査で複数の自治体の端末で個人情報を外部に持ち出せる状態になっている実態が報告され、セキュリティー対策の甘さをあらわにした。

 今回の10万円給付でも、カード所有者のオンライン申請で不具合が続出し、受け付け休止が相次いだ。別の助成金のオンライン申請で個人情報の流出も続いている。

 まして国民にとって所得・資産状況に関わる口座情報は最も取り扱いに注意しなければならない。

 国はマイナンバーをてこに個人の資産状況を把握し、徴税や生活保護の支給判定に使う道を探ってきた。国民の懸念に応えぬまま、公的給付や今秋の買い物ポイント事業などで用途拡大を狙っても、広く受け入れられるだろうか。

 デジタル技術による行政事務の効率化やサービス向上策を明示しつつ、個人情報の流用、漏えいを防ぐ歯止め、監視策によって安心を担保できるかが問われよう。