相次ぐワークス撤退。今こそGTクラスの統合を再考するとき【ジョン・ダギースのGTEコラム前編】

 6月4日に行われた、ポルシェGTチームのIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権でのワークス活動終了という発表は今シーズン、フォード勢を失った北米シリーズに衝撃を与えた。また、WEC世界耐久選手権のGTEクラスもフォードに加えてBMWが姿を消しているだけなく、新しいプロトタイプ・プラットフォームの誕生によって同クラスの存続を危惧する声が挙がっており他人事とは言えない。

 そうした状況のなかSportscar365の編集長ジョン・ダギーズはWECのLM-GTE ProとGTE-Amクラス、IMSAのGTLMクラスで、FIA-GT3カーが中心的存在になるべきだと主張している。

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 2020年シーズンの終わりにポルシェがIMSAのGTル・マン(GTLM)クラスから撤退するという発表は、予想外ではあるものの完全な驚きというわけではなかった。それでもスポーツカーレースの世界に衝撃を与えたことは事実だ。

 ポルシェのGTLMクラスでのワークス活動終了は、新型コロナウイルスのパンデミックが主要な原因であるとされているが、理由はそれだけではないだろう。
 
 ドイツメーカーの撤退がアナウンスされた今、IMSAと他のシリーズ団体はともに立ち上がり、課題のあるモータースポーツ全般の前途について状況に注目し、困難に対処することになる。

 いかなる状況にせよ、対処法の一部は現状の経済情勢に適応する能力を持つことが重要だ。

■先行き不透明なGTEとGTLM

 近い将来に変更されるスポーツカーの規定をおさらいしておくと、DPiはIMSAとACOフランス西部自動車クラブの新たなプロトタイプ・プラットフォーム“LMDh”として2022年までに開花しようとしている。また、LMP2は2022年に導入される新レギュレーション策定が控えており、同じく22年にはGT3のレギュレーションが刷新される予定だ。
 
 その一方でGTE、GTLMクラスは不確実な未来に直面している。この8カ月でフルシーズン参戦していたマシンの半分を失ったのだ。

 フォードはミッドシップのGTスーパーカーを走らせたワークスチームを予定どおり、昨年末でふたつのクラスから撤退させた。結果として今年1月に行われたIMSAの開幕戦、ロレックス・デイトナ24時間ではパドックに空白が目立つことになった。

 7カ月後には、ポルシェがフォードと同じくGTLMクラスから撤退しようとしている。来季はおそらく、残されるコルベットとBMWがGTE仕様のマシンでフルシーズン参戦を継続し、フェラーリのプライベーターであるリシ・コンペティツィオーネが不定期に参戦することになるだろう。

 こうした状況下ではGTLMクラスに4台から5台のマシンが参戦するのが考えられるベストな筋書きだが、BMWはまだ正式には2021年以降のシーズンもM8 GTEで参戦するとを明言していない。

■2021年、歴史が繰り返される?

コルベット・レーシングがALMSに投入したシボレー・コルベットC6.R

 もしもBMWが違う方向へ進むことを決断した場合、後には何が残るだろうか。それは2008年のALMSアメリカン・ル・マン・シリーズのシーズンの繰り返しになるかもしれない。そのときはコルベットが事実上無競争の状態で、今は廃止されているGT1クラスを走行したのだ。

 シボレーのファクトリーチームを運営するプラット・アンド・ミラーが出場マシンの多いGT2クラスに加わったのは2009年半ばのことだった。当時、このクラスはファクトリーもプライベーターチームも同様にしのぎを削っていた。

 それから早くも11年が経ち、IMSAは同じ岐路に立たされている。プロダクションベースのランクにおいて、クラス崩壊の可能性があるのだ。

 プライベーターのポルシェ、フェラーリ、アストンマーティンGTE勢がWECやELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズから流れてくるわずかな希望を除いては、新たな展開は見えていない。今こそ長きにわたって話し合われてきた“GTクラスの統合”について再考すべきだ。

 GTの単一プラットフォームのコンセプトは、マニュファクチャラーと運営団体の間で過去10年近くにわたって熱心な議論が行われてきた。

 そのなかで少なくとも2回、具現化に近づいた機会があった。最近のコンセプトは、必然的に一般的なGT3スタイルのベースプラットフォームに加え、上位クラスはパフォーマンスの強化を図るというもの。すべてのプロフェッショナルクラスで、ProとPro-Amカテゴリーを明確に区別できるものになる。

 しかし、この提案は最終的にいくつかのマニュラクチャラーが却下した。だが、この当時は半ダース近くのマニュファクチャラーがGTEに関わっていた時期なのだ。

 来シーズン、IMSAに残るマニュファクチャラーは2社である可能性が高く、WEC権に残っているのもたったの3社だ。仮に来年、ポルシェが世界各地を回るチャンピオンシップを継続することにしても、IMSAとACOはグリッドを健全化し、新規参入しようとするOEM候補を逃さぬように積極的な動きをとる必要がある。

BMWチームRLLの25号車BMW M8 GTE(左)とライリー・モータースポーツの74号車メルセデスAMG GT3(右)

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