コロナで増えた投資初心者の傾向は? 「買った銘柄」と「参加のタイミング」を調査

新型コロナウイルスの影響を受け、株式市場の値動きが荒くなっています。リーマンショック以来の大暴落となったコロナショックと、コロナバブルと呼ばれるその後の株価回復により、多くの投資家が値動きの難しさを実感。その一方で、暴落を機に株式投資に参加したビギナー層は「バイ&ホールド」というシンプルな方法でうまく利益を伸ばしているようです。

さて、ビギナー層はどんな銘柄を買ったのでしょうか?


まずはコロナショックからコロナバブルにかけての値動きを振り返ってみましょう。

2019年末に24,000円前後で推移していた日経平均株価は、20年1月末からのコロナ懸念により、23,000円を下回りました。

この時の下落は一時的でしたが、2月末から再び下落。2月20日に23,000円台を回復していた株価は、3月19日には16,552円まで下がり、1ヶ月で6000円以上、30%近い大暴落となったのです。

ここまでがコロナショックで、ここから相場つきが急転します。

3月下旬に底をつけた株価は、その後の1ヶ月で20,000円まで回復。ゴールデンウィーク後も回復の勢いは衰えず、5月に22,000円手前、6月には23,000円台を奪還し、ほぼコロナショック以前の水準まで値を戻しました。

さて、このV字回復は株のビギナーにどんな影響を与えたのでしょうか。

松井証券提供のデータによると、新規で口座開設する人の数(月間)は、例年3,000人から5,000人の間で推移し、年初に少し増加する傾向にあります。

また、新規で口座開設する人のうち投資の未経験者は45〜55%くらいの割合です。

しかし、コロナショックはこの数値を大きく変えました。

コロナが懸念され始めた1月から2月の口座開設者数は6,000人を超えました。また、下落が加速した3月の開設者数は例年の3倍以上となる14,000人に増え、しかも、そのうちの66%が投資未経験者という割合になりました。

4月、5月も新規の口座開設者数は1万人前後で推移し、そのうちの投資未経験者の割合も60%以上で推移しています。また、NISAの口座開設数も同様で、例年は月1,000口座前後で推移していますが、3月から5月にかけては3,000口座まで急増しました。

日別で見ると、口座開設の申込件数は3月14日と15日の週末がピーク、口座開設の手続き完了は3月17~24日がピークでした。

これは日経平均株価が底値をつけた3月19日とタイミングが合致します。

つまり、口座開設し、すぐに株を買ったビギナー層は完璧なタイミングで底値買いできたことになるわけです。

暴落のニュースが投資家掘り起こしの刺激に

下がったら買う。暴落は買い

このような逆張り志向は多くの個人投資家に見られる特徴の1つです。

松井証券営業推進部の吉澤正壽さんは、ビギナーに限らず「株価急落時にNISA口座で買う投資家は以前から多い」といいます。

その点から見ると、コロナショックは「暴落しているなら買ってみようか」「今が買い時なのではないか」といった心理を刺激し、株式投資に興味を持つ潜在的な投資家層を掘り起こす要因になりました。

暴落がきっかけとなって新規の投資家が増えた例は過去にもあり、リーマンショック後も新規の口座開設が増えました。

しかし、口座数で比べるとコロナショックの方が上です。

リーマンショック後で最も口座開設が増えたのは2008年11月で、12,344口座が新設されました。コロナショック後は20年3月が最多で、14,089口座が新設されています。

その理由について、吉澤さんは「リーマンショック時よりも株価下落が身近に感じられたからではないか」と分析します。リーマンショックは金融危機で、しかもアメリカ発の暴落だったため、株などのリスク資産を持たない層では興味を持たなかった人たちもいます。

一方、コロナは身近な危機で、感染者数の推移とともに、株価の動向についても連日のように報じられました。

そういったニュースが「さすがに安いのではないか」「これ以上は下がらないのではないか」といった逆張り志向を刺激したのかもしれません。

「原油価格の暴落や、米国NY市場でサーキットブレーカー(株価の急騰・急落による混乱を避けるために売買を15分間中断する制度)が連続して発動されたことなども大きなインパクトを与え、「株が安い」「今が買い時」という認識を醸成した可能性もあります」(吉澤さん)

優待、コロナ、値動きが大きい銘柄に分散

では、投資未経験者だったビギナー層は、暴落の中でどんな銘柄を買ったのでしょうか。

引き続き松井証券のデータを参考にすると、株価が上昇トレンドに変わった3月と4月に買われた銘柄群(売買代金上位)から3つのパターンが浮かび上がります。

1つは、優待・高配当銘柄です。売買代金でトップとなった日本航空(9201)がその代表格といえるでしょう。日本航空の株価はコロナショック前は3,000円以上でしたが、3月から4月には2,000円割れ水準まで下落。割安感が増し、3月最終日の株主優待でJALグループの株主割引券が獲得できることなどが買われた要因といえます。

同様の理由でANAホールディングス(9202)や、高配当銘柄のオリックス(8591)と武田薬品工業(4502)も買われ、それぞれ売買代金のトップ10に入っています。

2つ目はコロナ関連です。上位銘柄では、治療薬の思惑で富士フイルムホールディングス(4901)や新興市場のアンジェス(4563)、テレワークや自粛関連でブイキューブ(3681)や出前館(2484)などが買われました。

3つ目は値動きが大きい銘柄で、日経平均レバレッジ上場投信(1570)やソフトバンクグループ(9984)なども買われました。

一方、以前から口座を持っている既存の投資家はどんな銘柄を買ったのでしょうか。

売買代金のトップ2は前述した日経平均レバレッジ上場投信(1570)とソフトバンクグループ(9984)で、株価回復のトレンドの中で大きなリターンを狙いにいった様子が伺えます。

また、その他の上位銘柄としては、任天堂(7974)、ファーストリテイリング(9983)、ソニー(6758)、トヨタ自動車(7203)、東京エレクトロン(8035)、(株)オリエンタルランド(4661)などがあります。

ビギナー層の購入銘柄が優待・配当銘柄やコロナ関連銘柄などに分散していたのに対し、既存の投資家の購入銘柄は値嵩株(1単元あたりの購入価格が高い銘柄)や出来高が多い大型株に集中する傾向が見られました。

6月上旬の時点では、ランキング上位に入った銘柄はいずれも値上がりしています。

また、吉澤さんによると、ビギナー層の「3、4月の確定利益はプラスで、以前から口座を持っている投資家よりも成績がよかった」そうです。
コロナショックは株を始める人にとって絶好のタイミングになったといえるでしょう。

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