「このままでは廃業も」 雇用調整助成金 支給決定5割以下 長崎 度々変わる制度に事業者混乱 専門用語並ぶ書類に頭悩ませ

ハローワークに設置された雇用調整助成金の相談窓口=長崎市宝栄町

 新型コロナウイルスの影響で業績が悪化した企業の雇用を支える雇用調整助成金(雇調金)の申請が本格化している。だが、支給が決まったのは申請者の半分以下。国は申請の簡略化で対応しているが、一刻も早く資金を手にしたい事業者からは「申請に行き着かない」「現状が続けば廃業も考えなければならない」との声が漏れる。
 雇調金は、企業が従業員に払う休業手当の費用を支援する制度。コロナ禍の特例で従業員を解雇せず、県の休業要請に応じて休業したなどすべての条件がそろえば中小企業は10分の10、大企業は4分の3まで給付される。
 長崎労働局によると、5月下旬から申請件数は増え、6月10日までに1134件の申請があった。このうち支給が決まったのは552件(約3億5600万円)で、支給割合は48.7%。
 国は申請書類数を段階的に減らし、簡略化してきた。だが、申請手続きの代行に携わる県社会保険労務士会の中島政博会長は「申請者にとっては専門外の内容で難しいはずだ」と話す。専門用語が並ぶ書類に頭を悩ませ、度々変わる制度に事業者が混乱しているという。
 事業者からも依然として分かりにくさや煩雑さを訴える声が上がる。
 「初めての作成で分からないことばかり。手探りで書類の作成をしている状態」。建設業で経理を担当する女性は嘆く。
 インターネットで書類の記入法を調べ、自力で作成を試みたが限界だった。ハローワークで「出張相談」をする社労士を2回訪ねて作成を進めるがまだ完成できない。「また来週、相談に来ます」
 長崎市で経営する飲食店を休業した男性(55)も申請書類の作成に難渋している。必要書類は支給申請書や休業実績一覧表など。タイムカードや出勤簿など休業させた日や時間が分かる書類のほか、給与明細の写しや控えなどの書類提出も必要だ。男性は手引書を参考に記入を進めるが、時間だけが過ぎる。「聞き慣れない用語ばかりでスムーズに進まず、申請に行き着かない」とため息をつく。
 また、雇調金の支給は事業者が休業手当を払った後。その分の資金を事前に自ら用意する必要もある。長崎市で土産品を販売する男性(68)は金融機関から数千万円の融資を受け、従業員に払う休業手当にも充てた。
 男性の会社は現在も時間短縮で営業。毎月千数百万円あった売り上げは戻る見通しが立たず、助成金はまだ出ない。「今、現金が必要なのに。この状態が続けば廃業に追い込まれかねない」
 第一生命経済研究所の田中理主席エコノミストは「不正受給を防ぐため審査は必要だが、今は緊急事態。支給後に抜き打ち審査をして不正を摘発するとして、まずは手早く支給することを重視すべきだ」としている。

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