通訳スタイルのニューノーマルについて きこえない人のための手話通訳・文字通訳の新しい通訳スタイルについて

By 伊藤 芳浩

 新型コロナウィルスが蔓延する前から、きこえない人のために、離れたところにいる手話通訳・文字通訳が窓口や受付などの担当の発する声を「手話」「文字」に通訳する遠隔通訳サービス(手話・文字対応)は一部の自治体・企業などで導入されていました。

感染防止を契機に普及期に入った遠隔通訳(手話・文字)

 2020年に入ってから、新型コロナウィルス(COVID-19)の蔓延によって、感染防止の観点から、遠隔通訳という形態にスポットライトがあてられるようになってきました。また、厚生労働省が「遠隔手話サービス等を利用した聴覚障害者の意思疎通支援体制の強化」として、自治体(都道府県)を対象に、令和2年度補正予算:6億円を拠出することになったことが、遠隔通訳サービス導入の追い風となってきています。このため、遠隔通訳サービスを導入してきている自治体などが急増してきています。

対面通訳・遠隔通訳のメリット・デメリット

 通訳にはもう1つ従来からある「対面通訳」という形態があります。これは、地域の派遣窓口に通訳を依頼して、病院や店舗へ派遣していただき、その場で通訳をしていただくものです。

 それぞれメリット・デメリットがあり、まとめると次のような表の通りとなります。

「対面通訳」のメリットとしては、

  • 通訳者がその場の状況・背景を正しく把握し、正確に伝えることが可能

というところが挙げられます。

逆にデメリットとしては、

  • 感染防止が十分にできないため、感染のリスクがある
  • 通訳者の移動時間やコストがかかるため、確保がしにくくなる

というところが挙げられます。

「遠隔通訳」のメリットとしては、

  • 離れた場所で通訳できるため、感染防止が可能
  • 通訳者の移動時間やコストがほとんどかからないため、確保がしやすくなる

というところが挙げられます。

逆にデメリットとしては、

  • 通訳者がその場の状況・背景を正しく把握し、正確に伝えることが難しい
  • 音声がきこえないなどのトラブルに迅速に対応することが難しい

というところが挙げられます。

「対面通訳」「遠隔通訳」の使い分け

 「対面通訳」「遠隔通訳」それぞれにメリット・デメリットがあるので、上手に使い分ける必要があります。

 使い分けの例として、次のようなものがあります。

  • 通訳の対象として、難易度の高い会話が含まれている場合、通じやすさを優先して、「対面通訳」を選ぶ。
  • 通訳を受ける側が「遠隔通訳」の特性を十分に理解した上で、利便性を優先して、「遠隔通訳」を選ぶ。
  • 通訳する情報の難易度や場面に応じて、「対面通訳」「遠隔通訳」を使い分ける。

通訳形態のニューノーマルは定着するか?

 新型コロナウィルス(COVID-19)が蔓延してきて、外出自粛が当たり前になってきて、世の中が「オンライン」に傾倒してきています。このような新しい生活様式のことを「ニューノーマル」と呼んでいます。その中で、通訳スタイル(対面通訳・遠隔通訳)はどのようになっていくのでしょうか。

 新型コロナウィルスが終息しても、しばらくは「ニューノーマル」としての「遠隔通訳」は続くことでしょう。そして、通訳を利用する者や通訳を用意する者が「遠隔通訳」のメリット・デメリットを理解できるようになれば、必要な場面で、「遠隔通訳」は定着していくことになるでしょう。

 同様に、「対面通訳」も必要としている場面がある限りは、ずっと継続していくことでしょう。

 個人的には、どちらとも必要であり、当事者(きこえない・きこえにくい人)の意見を尊重した上で、それぞれのメリット・デメリットの特性を十分に理解した上で、多くの場面・場所にて、導入が進んで欲しいと心から願っています。きこえない・きこえにくい人ときこえる人が自由にコミュニケーションできる豊かな共生社会へ一歩一歩進んで欲しいと心から願っています。

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