精子成熟機構をオンにするメカニズムの解明 大阪大学

約6組に1組のカップルが不妊に悩み、そのうち約半数は男性側に原因があるという。しかし、精子の成熟に関わる因子についてはこれまでほとんど分かっていなかった。

今回、大阪大学微生物病研究所のグループは、精子の成熟機構のスイッチをオンにするメカニズムを世界で初めて明らかにした。精巣には精子を成熟させる機能が備わっていないため、精巣で作られたばかりの精子は受精能力を有していないが、精細管の管腔を通って精巣上体へ送られると、2週間という長い時間をかけて「成熟」し、受精能力を獲得する。性成熟の過程で、精巣の精細胞がNELL2タンパク質を分泌することで、幼少期には未熟な精巣上体を刺激して分化誘導し、精子の成熟機構をオンにするのだという。

本研究ではまず、遺伝子発現解析により、性成熟期において精細胞で作られるNELL2が管腔を通して精巣上体に運ばれると、精巣上体のROS1タンパク質が応答して精巣上体が分化することを見出した。さらに分化した精巣上体がタンパク質分解酵素OVCH2を分泌することで、精巣上体を移行中の精子がOVCHの作用を受けて成熟することを見出した。遺伝子改変マウスを用いた実験では、精巣のNELL2、精巣上体のROS1のいずれを無くした場合でも、精巣上体が分化せず、精子が成熟できないため雄性不妊となることが確認された。

また、このように管腔の中を通る因子を介した組織間情報伝達システムは「ルミクライン」と呼ばれ、その存在が40年以上前から示唆されていたが、NELL2がルミクライン因子であることが世界で初めて明らかとなった。これまで仮説に過ぎなかったルミクラインの存在とメカニズムが本研究で初めて明らかとなったことで、さまざまな生命現象を理解するための新たな視点が加わった。

今後、NELL2による精子成熟の制御機構の解明が進めば、男性不妊の診断・治療薬や避妊薬の開発にも繋がると期待される。

論文情報:

【Science】NELL2-mediated lumicrine signaling through OVCH2 is required for male fertility

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