巨人支配下の沼田は「めんこい顔してるけど…」 高校恩師が語る“育成の星”の素顔

巨人・沼田翔平【写真:荒川祐史】

旭川大高の端場監督が巨人沼田の素顔を語った「投手としての意識が高い」

巨人の沼田翔平投手が5月31日に支配選手登録された。18年育成ドラフト3位で入団してスピード出世を果たした19歳の原点を探るため、旭川神居中、旭川大高時代の恩師に話を聞いた。3回に分けてお届けする。第2回は旭川大高時代の端場雅治監督。

端場監督が沼田を初めて見たのは、沼田が中学2年の時だった。「その時はサードを守っていましたが、光っていました。運動神経が良くて、バネがある。強い球を放る姿を見て、楽しみだと思いました」と当時の印象を語る。

中学では軟式ボールを握っていたにも関わらず、高校入学直後の春季大会でいきなりベンチ入りを果たした。旭川支部予選初戦の旭川商戦で初先発して3回無失点デビュー。以後エースへの道を歩んだ。

3年春には道内No.1右腕としてスカウトから高評価を受けるほどに成長。だが、最後の夏にかけて調子を落とした。「肩が痛いと言っていましたが、心も痛んでいたと思います。秋も春も打たれて負けて、信頼が得られていないような雰囲気がチーム内にありましたから」と端場監督は語る。同学年には最速140キロを超える投手が沼田を含めて4人いた。甲子園に最も近いと言われながら、2年秋も3年春も同じ旭川支部のライバルである旭川実に敗れ、沼田はエースとしての責任を痛感していた。

殻を破る転機になったのは、北北海道大会準決勝の旭川実戦。6-8と劣勢で迎えた9回に登板し、味方の失策で先頭打者を出した後、落ち着いて無失点で切り抜けた。「あのまま負けるかもと思いましたが、あの時の沼田はすごかった。腹を決めていた。雰囲気や顔つき、流石だった」と端場監督も舌を巻く気迫だった。その裏に打線が3点を奪って逆転サヨナラ勝ち。決勝のクラーク戦では、沼田は6安打3失点完投とその夏一番の投球で優勝した。

旭川大高・端場雅治監督【写真:石川加奈子】

2018年夏の甲子園1回戦、佐久長聖戦(長野)でタイブレークの末、敗れた

甲子園では佐久長聖戦に先発して8回9安打4失点(自責0)。チームは甲子園初のタイブレークの末に敗れた。その翌日、沼田はプロ志望届を出す意向を表明した。「甲子園に行って、本気でプロに行きたいと思ったのではないでしょうか。腹を決めた感じがありました」と端場監督は話す。

140キロ超を誇る4人の投手陣の中でも、端場監督が最も信頼を置いていたのは沼田だった。「ピッチャーとしての意識が一番高い。何かを言うタイプではないですが、黙々と自分の考えていることをやり通す」とその姿勢を高く評価していた。印象に残っているのは沼田が常々口にしていた「いいボールを投げるピッチャーよりも、バッターを抑えるピッチャーが一番いいピッチャー」という言葉だ。

その言葉を忠実に実践し、最速146キロだった高校時代は球速よりも打者を抑えることに注力していた。甲子園での最速は142キロ止まり。「もっと速い球を放りたいと思ったら、放れたと思います。プロにアピールしたいと色気が出てもおかしくない。そこを抑えたところが大人」と端場監督は感心する。甲子園から帰って来た後、端場監督が本人に尋ねたところ「点差がついていたら、(球速はもっと)いけました」とサラリと答えたという。

支配下登録された日は、端場監督のもとに本人から直接電話があった。「いつもはLINEですが、電話で『今日は報告があります』なんて言うので、よほどうれしかったのでしょう。どんな環境でもやるべきことをできる子ですが、育成から支配下に上がるというはっきりした目標があったことは結果的に良かったのかもしれません」とうれしそうに語る。

育成選手としてプロに送り出す時には、想像しなかったスピードで支配下登録を勝ち取った。「3年経ってどんな感じかなと思っていました。今年のキャンプで1軍に呼ばれた時も、1軍の雰囲気を勉強する良い機会ぐらいに捉えていました。めんこい(かわいい)顔してるけど、きかん気が強いので、中継ぎに向いているかもしれないですね。先発で投げるところも見てみたいですが、まだまだ欲を言える立場ではないので、今年1年で経験値を上げて、また目標を見つけてやってくれたら。今は教え子というよりファンの気持ちです」と教え子の活躍を願った。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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