メルセデスAMGのF1用ハイブリッド・システム 10周年[1/2]

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2019年8月2日〜4日にハンガリーのハンガロリンクで開催されたF1世界選手権2019の第12戦、「ハンガリー・グランプリ」で、メルセデスAMGペトロナス・モータースポーツ・チームの「W10 EQ Power+」に乗るルイス・ハミルトンが優勝した。思い返せば、10年前の2009年、ハンガリー・グランプリで、初めてハイブリッド・システムを使用したF1として優勝したドライバーもハミルトン選手であり、数奇なめぐり合わせであり、F1ハイブリッド・システムの10周年ということもできる。

2019年のハンガリー・グランプリで優勝したルイス・ハミルトンが操るメルセデスAMG「F1 W10 EQ Power+」

F1グランプリへのハイブリッド・システム導入

F1グランプリでは2009年に運動エネルギー回生システム(KERS:ブレーキエネルギー回生+モーターアシスト=カーズ)が初めて導入された。ただし2013年まではチームの判断による任意搭載だった。そうした中、初年度にKERSを搭載したのはわずか4チームで、年間でKERSを搭載したチームは3勝をあげたものの、チャンピオンを争うまでには至らなかった。

2009年のハンガリー・グランプリでF1ハイブリッド(KERS)に初優勝をもたらしたマクラーレンF1/ルイス・ハミルトン

そのため2シーズン目となる2010年にKERSを搭載したチームはゼロになってしまった。その反省から、2011年からはKERS搭載が義務化され、下位3チーム以外はKERS搭載が必須となった。そして2012年以降は全チームがKERSを搭載したマシンへと変わっていった。

KERSとは

KERS採用の当初は、リチウムイオン・バッテリーの重量が40kgもあったが、その後は25kg程度にまで軽量化されている。それだけバッテリーのエネルギー密度が向上したから軽量化ができたわけだ。しかし、バッテリー、モーターの重量に対してモーターの駆動アシスト力は大きくないので、それほど強力なシステムとはいえなかった。

2017年仕様のメルセデスAMG「F1 W08 EQ Power+」

この時代のKERSシステムは、後輪を駆動するためエンジンとモーターは直結され、ブレーキ時に後輪から発生する回生電力をバッテリーに蓄え、駆動アシスト時には最大出力60kW、1周あたり発揮できるエネルギーは最大で400kJ(キロジュール)と規定されていた。概略で81.6psのパワーアシストを1周あたり6.67秒間使えるというものだった。

そして、バッテリーの電力を使用して駆動アシストを行なうときには、ドライバーがステアリングホイールにあるKERSボタンを押す。市販ハイブリッド車のようなブレーキ/エンジンとの協調制御は認められておず、ステアリング上のダイヤルで回生力や出力の調節を行なう仕様とされていた。

ハイブリッド・システムの変化

2014年からは、より本格的なハイブリッド・システムとするため運動エネルギー(ブレーキ回生)だけではなく、エンジンの熱エネルギーの回生も併用する新たなハイブリッド・システムへ発展している。

このシステムの名称はエネルギー回生システム(Energy-Recovery System :ERS)と呼ばれ、従来からの減速エネルギーの回生電力(ブレーキ回生=MGU-K)に加え、エンジンの熱回生としてターボチャージャーと同軸の発電機(MGU-H)による回生を行ない、発電で得られた電力もバッテリーに蓄え、加速時にモーターによる駆動アシストを得られるというシステムになった。

現在のERSシステムの配置(2019年仕様のホンダF1エンジン)

ハミルトンが乗るメルセデスAMG F1のエンジンは1.6L V6直噴エンジン+シングル・ターボ(つまりダウンサイジング・ターボ)とされ、ERSと組み合わせることでひとつのパワーユニットとなる。このためERSの開発はエンジン・サプライヤー(つまり自動車メーカー)が担当することとなった。また、ブレーキ回生を担当するリヤブレーキの協調電子制御も解禁され、これも自動車メーカーでなければ開発することは難しくなっている。

燃料使用量の制限

このERSを採用したパワーユニットに対して、レース中に使用できる燃料の制限も採用されている。2013年までのV8型エンジンは1レースあたり160kg程度の燃料を消費していたが、2014年からは決勝レース中の最大燃料搭載量が100kgに制限された。つまりダウンサイジングとERSの搭載により従来比35%の燃費向上が求められたのだ。

エンジン本体の最高回転数が1万5000rpm、燃料流量は最大100kg/h(燃料の流量制限)に決められたため、2014年以降はエネルギー効率を大幅に高めることが重要になった。

ERSではターボと同軸の発電機(MGU-H)は、エンジンの熱エネルギーを回収し発電に専念するので、駆動アシストはブレーキ回生を行なうMGU-Kがモーターとして作動する。MGU-Kの最大出力は120kW(163ps)と従来の2倍になった。MGU-Kからバッテリーに送られる回生量は1周あたり2MJ(メガジュール)で、バッテリーの電力での駆動アシストは1周あたり4MJと決められている。

一方、MGU-Hの発電量は無制限で、その電力は直接MGU-Kの駆動モーターに使える。バッテリーの充電レベルが高いときはMGU-Hがモーターとして作動し、直結するターボの回転数を加速させる、つまり電動ターボとしても使用でき、バッテリーの充電レベルが低い条件ではバッテリーに充電するという3種類の働きをする。

メルセデス・ベンツAMGの2019年仕様のパワーユニット

前述のように、ブレーキ回生でのバッテリーへの充電は1周あたり2MJ、駆動アシストに使用できる電力エネルギーは4MJと差があるので、2014年以降のERSでは、発電量無制限であるターボ直結のMGU-Hの性能が極めて重要になっていることが分かる。ちなみにMGU-K、MGU-Hともに3相交流で、インバーターで直流に変換してバッテリーに電力が送られる。

またERSの時代では、ドライバーは駆動アシスト用のボタンを押すのではなく、レースの戦略に従い、パワー・モード、回生モード、燃費モードなど走行モードスイッチで切り替える方式になっている。

メルセデス・ベンツAMGの2019年仕様のパワーユニット

いずれにしても2014年以降はエンジンとその燃料使用量、電気エネルギーの総合効率をどれだけ高めるか、また走行中のエネルギー・マネージメントがどれだけ正確かがポイントになり、メルセデスAMGの場合はエネルギー制御ECUは、レース中に平均で43兆回以上の演算を行なっているという。駆動モーターをどの速度で稼働させるか、バッテリーからどのくらいの電力を投入するかなどが常時演算されているのだ。

この続きは次回。

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