バレー柳田将洋が「アウトプット」にこだわる理由 積み重ねた経験を伝え、学び得る日々

6月1日、Vリーグ・サントリーサンバーズに4季ぶりに復帰すると発表した柳田将洋。新型コロナウイルス感染拡大の影響で自宅待機を余儀なくされた期間、オンラインのアカデミーを開催するなど、日本代表の主将も務めるプロバレーボーラーとして「自分の経験を誰かに伝える」ことで自らも学びを得る日々を過ごしたという。2015年のFIVBワールドカップにおける活躍でブレイクし、周囲の環境が激変する中、困惑や葛藤をどう消化し、現在はどのようなことを模索しながら過ごしているのか?

(インタビュー・構成=米虫紀子、写真=Getty Images)

自分の経験を誰かに伝えることはできないのか?

──新型コロナウイルスの感染拡大の影響で3月に東京五輪の1年延期が決まりましたが、その時の心境について聞かせていただけますか。

柳田:正直、決まった瞬間は、特に何もないというか……。それまでに、中止か延期になるだろうという話が出ていましたし、ニュースを見ていても全然、(今年開催)できると思っていなかったので、その瞬間は、中止じゃなかったからよかったなと。中止だったら大変なショックだったとは思うんですけど、延期だったので、今のところは。

──できれば今年やってほしい、という感じではなかったですか?

柳田:それは全然なかったですね。「もしこのままやることになったらどうするんだろう」と思っていました。僕は人の命が危険にさらされてまでもやりたいとは思わないですし。オリンピックは、やっぱり“人”がするわけで、プレーヤーも観客も“人”なわけなので、その“人”が危険にさらされている状態で、オリンピックの話をすることは難しいと思うので。

オリンピックってものすごく重要だし、僕にとっても人生の分岐点になってくる大会だと思うんですけど、でも、死んでしまったら元も子もないというか。仮に自分の行動一つで、大事な人が大変な目にあったりするほうがよほどつらいと思うので。

──なるほど。3月にはプレーしていたドイツリーグが中止となって帰国され、代表合宿も合流して間もない4月6日に解散に。その後は自宅での長い自粛生活となりました。こうした未曾有の状況の中で、アスリートとして考えたこと、感じたことはどのようなことでしょうか?

柳田:今は競技がまずできないので……。僕たちは、バレーボーラーなのでバレーボールをすることが仕事なんですが、それがこんなに制限されるのは初めてのことです。競技ができなかったら、じゃあどうするんだろうとなった時に、それでもなくならないものって、自分たちが積み重ねた経験だったり、価値だと思うんですよね。じゃあそれを今、自分が誰かに伝えることはできないのか、そういう新しい時間が作れないかなと考えました。映像などを使っていろんなことを伝えていきたいという思いは前々からありましたし。その一つが、今僕がトライしているものになるんですけど。

アウトプットすることで自身の深層心理を紐解く

──「Yanagida Masahiro Academy“Garden”」というZoomを使ったオンラインのアカデミーですね。

柳田:はい。やってみたいと思っていたことが今、形にできていますし、それによって学べている自分もいるので、それはそれでいい時間だな、と。

──人に教えることによって、自身も学べる?

柳田:教えるために、例えば、自分がこういう気持ちで、こういうことを大事にして打ってきましたという技術的、メンタル的なことを、改めて口にして、アウトプットすることで、自分の深層心理にあったことがハッキリすることもある。言葉にすることがいかに難しいかということも考えさせられる時間でした。自分のキャリアが終わって何かをする時に、例えばバレーボールのことじゃなくても、思ったことをしっかりと説明できるという、そういうところにもつながるのかなと。ずっとインプット、インプットし続けてきて、アウトプットする時間が今までは少なかったと思うんですけど、それができる時間になっていますね。

──『Garden』ではわかりやすい図を使ったりもしていますね。

柳田:パワーポイントで自分で作っています。言葉でバーッと話していくのって、簡単というか、自分にとっては一番楽なんですけど、やっぱり受け手がいかにイメージしやすいかというところが僕としては大事なので、そこはこっちが甘えちゃダメだと思う。少しでも伝わりやすい方法を模索しながらやっています。もっといい方法が見つかるはずだと信じながら、勉強しながら。すでにオンラインのサロンだったり、アカデミーだったり、着手している人はいるので、僕は先駆的でもなんでもないんですけど、それでも僕が発信する意味というのはゼロじゃないと思っているので。

──ずっと人見知りだと公言されていましたが、数年前からLINEなどでのライブや、ファンミーティングをしたり、今回の自粛期間からはさらに発信の場が増え、いろいろな人と積極的につながろうとしていますね。

柳田:そうですね。たぶん壁は少しなくなってきているのかなと。人見知りと言いつつ、興味のほうが先に立つんですよね。やってみたい、知りたい、という気持ちが先にくるから、たぶんしゃべれているんじゃないかなと思います。そういうところは人見知りとは若干違うのかなと。お互いに何も知らない人と急に話せって言われたら難しいですけど、ある程度知っていたりする状況から始まっているので。例えば僕のファンの人だったら、その時点で僕のファンだという情報は一つあるわけだから、「いつもありがとうございます」みたいな感じになるじゃないですか。それだけで違います。急に出会ってしゃべってくれって言われたら無理です。

バレーボールを魅力ある競技にすることが第一

──2015年のFIVBワールドカップで活躍されて大ブレイクしたシーズンは、大勢のファンが詰めかけましたが、あの頃はあまり自分から距離を縮めようという感じではなかったですよね。

柳田:ま、あれは、ちょっと急すぎて(苦笑)。びっくりしましたね。どうしようかなって。人気が出ることはうれしいことなんですけどね。バランスが……。

──「プリンス」や「イケメン」というふうに取り上げられることについてはどう感じていたんですか?

柳田:いや、まあいい気分はしないですよね。恥ずかしいというか。「実力が評価されているのかな? どうなんだろう、ほんとは」って。難しい部分ですよね。自分で自分のことをうまいと思っていないですし。そういう難しさとは戦いながらやっていました。今は、気にしないです。まあ、お好きにどうぞ的な感じなんで(笑)。僕にとってはそんなに大事なことじゃないので。シンプルに考えて、今は整理できているとは思います。

──プロ選手になった2017年頃から、「バレーボールをメジャーにしたい」「バレー人口を増やしたい」ということをおっしゃっていましたが、海外リーグで経験を積んだり、さまざまな形で発信するようになった中で、バレーボールの未来のためのヒントは見えてきていますか?

柳田:いやー、模索中ですね。今僕はプレーヤーとしてどれだけ価値を上げられるかという挑戦をしている最中で、「プレーヤーとして」というのが優先というか一番なので、どうやって伝えるかというところまでまだ落とし込めていません。その中でも「Garden」などで発信はしているんですけど、(バレーを)やっている人がもっとやる気を出してくれるとか、そこまでしかできていない。やっていない人がやります、とか、バレー人口増えます、というところにまでは行き着いていません。それはまだ勉強していかないと。段階を踏んで、だと思うんですけど、何より、バレーボールを魅力がある競技にすることがまず第一だと思っています。

<了>

PROFILE
柳田将洋(やなぎだ・まさひろ)
1992年7月6日生まれ、東京都出身。ポジションはアウトサイドヒッター。186㎝、80kg。東洋高校時に春の高校バレーで主将としてチームを牽引して優勝を経験。慶應義塾大学を経て、2015年にサントリーサンバーズに入団し、2015-16シーズンV・プレミアリーグで最優秀新人賞を受賞。2017年にプロ転向し、2017-18シーズンはドイツのTV・インガーソル・ビュール、18-19シーズンはポーランドのクプルム・ルビン、19-20シーズンはドイツのユナイテッド・バレーズでプレーし、2020年よりサントリーに復帰。日本代表には2013年に初選出され、2018年より主将を務めている。

© 株式会社 REAL SPORTS