長崎県・宇久島で国内有数メガソーラーと風力発電計画 現状と課題とは 進まぬ住民らの合意形成 「太陽光」海底ケーブルに反発 県北の漁協「環境悪化する」

 長崎県佐世保市宇久島で、国内有数の大規模太陽光発電所(メガソーラー)と風力発電所を建設する計画がにわかに動きだした。メガソーラーの事業者は、本年度中に工事を始めると発表。風力発電の事業者は本土へ送電するための海底ケーブルの敷設にめどをつけた。ただ、どちらの計画も住民らの合意形成が十分にできていない設備がある。現状と課題を探った。

 五島列島の最北端に浮かぶ宇久島。人口約2千人。畜産業が盛んで、遊休地では牛が牧草をはむのどかな景色が広がる。

太陽光パネルを設置予定のゴルフ場周辺。島内では風力発電所を設置する計画もある=佐世保市宇久町

 この自然豊かな島にメガソーラー計画が浮上したのは2013年。発電所開発を手掛けるドイツ企業が事業主体となり、九電工(福岡市)や京セラ(京都市)などの国内大手も参加すると名乗りを上げた。

 計画によると、島面積の約3割に当たる約700ヘクタールの敷地に太陽光パネル約150万枚を設置。最大出力は480メガワット規模。高さ2~4メートルの支柱の上にパネルを取り付け、パネルの下で農業ができる「営農併設型」を掲げる。総投資額は2千億円程度。地権者に用地代を支払い、発電所の建設や維持管理で地域への経済波及効果が見込まれる。

 当初、過疎化が進む島を活性化させる「切り札」として期待が集まった。ところが、16年にドイツ企業が「協力関係の亀裂」を理由に撤退を表明。18年、九電工など複数社が事業計画を引き継ぐと発表した。

 しばらく表面上は目立った動きはなかったが、今年4月、九電工などは本年度中に工事に着手し、23年の売電開始を目指すと発表。パネル設置に必要な用地交渉や許認可取得をほぼ終えたとし、今後、送電用の海底ケーブル(全長約64キロ)を敷設するとした。

 ケーブル敷設には県などの許認可が必要で「地元関係者の合意」が条件となる。現在、これが最大の「障壁」となっている。

宇久島の再生可能エネルギー計画

 九電工の発表に対し、周辺海域の漁業者は「漁業環境が悪化する」と反発。佐世保、平戸、松浦各市などの11漁協でつくる県北漁協組合長会(片岡一雄会長)が5月中旬、「絶対反対」を表明した。地元の宇久小値賀漁協だけが態度を「白紙」とした。

 同会は、敷設したケーブルが刺し網漁などの支障となるほか、電磁波や熱の発生で「魚の成育環境が悪化する可能性がある」と指摘。パネル設置で島の森林を伐採すれば海へ流れる養分も減ると主張している。

 しかし一方で、風力発電計画に必要な海底ケーブル(全長約60キロ)の敷設は容認する姿勢を見せている。「海は自然のままにしたいが、(再生可能エネルギーに)一つぐらいは協力はしなければならない。風力は出力の規模が小さい」。漁協側は対応の「差」についてこう説明する。

 漁協がメガソーラーに反対する背景には、16年に発覚した元市議の汚職事件もある。宇久島を地盤とする元市議は、地元漁協関係者の立場で計画を推進。許認可で市から便宜を受けるため、朝長則男市長に賄賂を渡そうとして県警に逮捕され有罪判決を受けた。

 ある漁協幹部は「当時ほかの漁協も関係を疑われて警察の事情聴取を受けた。事業者からは何の謝罪もなく、強引に計画を進めている」と不信感を語る。

 これに対し、九電工は「納得してもらえるよう丁寧に説明を続ける」とする。市によると、島内で事業自体の反対運動はない。しかし、いざ事業着手となれば大勢の作業員が島に入ることになるため、新型コロナウイルス感染防止のため工事延期を求める声がある。計画は今後、曲折も予想される。


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