<いまを生きる 長崎コロナ禍> 祭り中止で収入ゼロに 苦境に立つ露天商

 地域の祭りやイベントでにぎわいを添える露天商。新型コロナウイルスの影響で催しの中止が相次ぎ、例年なら夏祭りや花火大会などで書き入れ時を控えるはずが、商売の見通しは立たない。「死活問題だ」。長崎県内の露天商からは悲鳴が上がる。

 諫早市内の露天商の倉庫。冷凍庫を開けると、肉やポテトなどの食品が山のように積まれていた。「夏に向けて仕入れたものでどの冷凍庫も満杯だ」。県内の露天商約150人を束ねる「長崎街商組合」の古賀國行会長はため息をついた。
 古賀会長が露天商の世界に入って約50年になる。従業員8人と家族で県内外の祭りに出向き、焼き鳥やいか焼きなどの露店を出店。韓国菓子「ホットク」や袋入りのレモネードなど、その時々で流行している海外の食べ物も研究し、商品化してきた。

長崎県内各地の祭りににぎわいを添えてきた露天商。新型コロナによるイベントの中止で商売の見通しが立たない状況が続く(写真はイメージ)

 今年は新型コロナの影響で祭りやイベントが軒並み中止となり、収入はゼロになった。「簡単には収まらない。正月までは無理だろう」。古賀会長はそう漏らす。
 政府の緊急融資などを受け、従業員の雇用はなんとか維持している。露店で手早く調理をするには経験が必要で代わりがききにくいからだ。約30年働き、家族同然の従業員もいる。「借金をしてでも辞めさせられない」
 祭りやイベントの中止を回避できないかと、運営者側に消毒液の設置や検温などの対策を提案してきたが実現していない。業界の生き残りのため、次男の翼さん(32)らは大型スーパーの駐車場などで「ドライブスルー露店」を企画するが、まだめどは立っていない。
 昔から「テキ屋」と呼ばれる露天商に対し、世間が決していい印象を抱いていないことは、古賀会長は分かっている。しかし、病院や高齢者施設、特別支援学校などに出向き、祭りに行けない人たちに露店を体験してもらうボランティア活動にも取り組み、感謝されてきた。
 地域に根付いてきた祭りや花火大会の起源は、もともと疫病退散の祈願とも言われる。「少しずつでも再開してもらいたい」。古賀会長は祈るように語る。

 


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