奴隷制度撤廃のために戦った実在のアフリカ系アメリカ人運動家を描く『ハリエット』

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『ハリエット』©Universal Pictures

アカデミー賞授賞式での華やかなライブ・パフォーマンスは、毎回趣向を凝らした演出で出席者と視聴者を楽しませている。2020年の第92回アカデミー賞では、ゴージャスかつ力強い歌唱で鮮烈な印象を残した二人の女性シンガーがいた。一人はオープニングでダンサーを率いて「Come Alive」を溌剌と歌ったジャネール・モネイ。

そしてもう一人は、歌曲賞ノミネート曲「スタンド・アップ」を熱唱し圧倒的な存在感を見せたシンシア・エリヴォ。

その両者が出演しているのが、2020年3月27日(金)公開の映画『ハリエット』である。

伝記映画でありスーパーヒーロー映画的でもあるハリエット・タブマンの英雄譚

本作でエリヴォが演じたのは、奴隷制度撤廃のために戦った実在のアフリカ系アメリカ人運動家、ハリエット・タブマン。幼い頃から奴隷として農場で過酷な労働を強いられていたが、自由を求めてたった一人でフィラデルフィアへ逃亡。離れ離れになった家族や仲間たちを救うため、秘密組織“地下鉄道”の一員となり、逃亡奴隷の救出作戦に参加。そして南北戦争では黒人兵士を率いて戦ったという、彼女の激動の人生が描かれている。

『ハリエット』©Universal Pictures

そんなハリエット役を熱演したエリヴォは、アカデミー賞歌曲賞に加えて主演女優賞にもノミネートされた。ちなみにジャネール・モネイは、ハリエットを保護する下宿のオーナー、マリー・ブキャナン役を演じている。

本作はジャンル的に「伝記映画」ということになるのだが、奴隷から英雄へと這い上がっていくハリエットの勇猛果敢な活躍からは、ある種のスーパーヒーロー(ヒロイン)映画のような印象すら受けてしまう。「伝記映画なのにこういう見方をしてもいいのだろうか?」と思って筆者なりにいろいろ調べてみたところ、監督のケイシー・レモンズも、音楽を担当したテレンス・ブランチャードも、それぞれインタビューの中で“(Real) Superhero”というような表現を何度か用いていたので、的外れな見方というわけでもなさそうだった。

本作は何度も映画化されてきたジャンヌ・ダルクの伝記のように、「様々な方法で表現できる、史実に基づいた物語のひとつの解釈」というコンセプトで製作された作品と言えるだろう。

『ハリエット』©Universal Pictures

ジャズ界の鬼才による、人々を奮い立たせる雄大な音楽

このようにハリエットにヒロイックなイメージを与えているのが、ジャズ・トランペッター/作曲家のテレンス・ブランチャードによる、雄大でエモーショナルなオーケストラ音楽である。

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"It's not even a shorthand, it's like a mind-meld kind of thing," working w/ Spike Lee @THR http://ow.ly/XJJxO

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ブランチャードは基本的にジャズ・ミュージシャンではあるものの、映画音楽ではジャズの枠を超えた幅広いサウンドを聴かせている。例えばアカデミー賞作曲賞にノミネートされた『ブラック・クランズマン』(2018年)では、自らピアノとシンセサイザーを弾き、主人公ロンのテーマに70年代ソウル/ロックのテイストを取り入れていた。

『ブラック・クランズマン』オリジナル・サウンドトラック(輸入盤国内仕様) 音楽:テレンス・ブランチャード 輸入・販売元:Rambling RECORDS Inc. 品番:RBCP-7403

ゴールデン・グローブ賞にノミネートされた『25時』(2002年)では、シェブ・マミのアラビックなボーカルと厳かなオーケストラスコアで、9・11後のニューヨークの沈んだ空気と、翌日収監される運命の主人公モンティの絶望を表現していた。そしてジョージ・ルーカス製作総指揮の『Red Tails』(2012年:日本未公開)では、エレクトリックギターと強烈なリズムが唸る豪快なアクションスコアを作曲してファンを驚かせた。

ブランチャードは本作で雄大なメロディと抒情的なメロディのふたつを用いて、ハリエットの内面的な強さと優しさをドラマティックに描いている。随所で聴かれるアフリカン・パーカッションの躍動感あふれるリズムも、アフリカ系アメリカ人のアイデンティティーを示唆する役割を担っていると考えられる。全体的にシリアスなトーンを帯びつつも、高揚を喚起するサウンドが多く聴かれるあたり、やはり本作は「スーパーヒロイン映画」の要素が強い作品なのかもしれない。

『ハリエット』オリジナル・サウンドトラック(輸入盤国内仕様) 音楽:テレンス・ブランチャード 輸入・販売元:Rambling RECORDS Inc. 品番:RBCP-7418

本作のサウンドトラックアルバムには、もちろんシンシア・エリヴォが歌う「スタンド・アップ」も収録されている。ハリエットの英雄譚を盛り上げるブランチャード渾身のオーケストラ音楽と、人々を奮い立たせるエリヴォのパワフルな主題歌を、是非アルバムでも楽しんで頂きたいと思う。

文:森本康治

『ハリエット』は2020年3月27日(金)より全国ロードショー