伏兵たちの革命前夜
EURO2016に臨むイングランド代表についてコラムを寄稿して以来、実に4年ぶりに私は筆を進めている。
現在も続くCOVID-19パンデミック、長き中断期間を経ていよいよ本日17日、英プレミアリーグが正式再開を果たす訳だが、ここからの未来は正に暗中模索の日々となるであろう。
リスボンでの集中開催も囁かれるヨーロッパコンペティションとの兼ね合いも含めた、未曾有の過密日程の幕開け。この“超総力戦”必至の2019-20シーズン終盤戦を勝ち抜くためには、ベンチメンバーは勿論、これまではそこに漏れてきたプレーヤーまでもが、メインキャストとしてピッチで戦うことを意味する(※FAは残り試合におけるベンチ入りメンバーを9名、交代枠5名への拡張を決定)。
そして、とりわけスカッドの拮抗したプレミアにおいて、その部分が大きな違いとなるであろう事は想像に容易い。
今回はその救世主となるべく“Xファクター”候補を、Xにちなみ10クラブから1人ずつご紹介する。
今日現在のリーグテーブルで、トップ2を除外した3位から12位までのクラブ。例に漏れず、全てが来季の欧州行きを勝ち取れる可能性のあるグループである。
ケレチ・イヘアナチョ
レスター・シティ所属
ガブリエル・ジェズスがマンチェスター・シティにやって来るまで、間違いなくこの男はスーパースター候補生の先頭集団にいた。
しなやかな身体使いと、パンチのあるショット、多彩なゴールパターン(今季は左右両足と頭で3得点)に加えて、ストライカーとしての嗅覚も抜群。
得点ランク首位のジェイミー・ヴァーディは33歳であり、タフな絶対エースもベンチに座る時間は増えるだろう。怪我により開花を遅らされてきたその才能を、今こそ爆発させるべき実力者である。
ルベン・ロフタス=チーク
チェルシー所属
昨季の最終盤、EL決勝を控えていたチェルシーは何故か、アメリカでチャリティー・マッチを行なった。
この商業的キャンペーンの犠牲者となったロフタス=チークはアキレス腱断裂の大怪我を乗り越え、中断期間中から全体練習に復帰している。
世代別代表では主将も務めたカリスマ性、191cmの体躯と柔らかいタッチを併せ持つこの男は、ヤング・チェルシーの挑戦的なシーズンに、最終的な成功をもたらす存在に成り得るだろう。
攻撃面に注目されがちだが勤勉なハードワーカーであり、フランク・ランパードは中盤に“高さ”と“時間(キープ力)”という新オプションを加えられる。
アンドレアス・ペレイラ
マンチェスター・ユナイテッド所属
多くの表層的批判はあれど、今も私はこのブラジル人に大きく期待をしている。
ペレイラはまだ若く、実質的なユナイテッドでのフル稼働期間は、まだ1年半に過ぎない。非凡な足元の技術とプレーアイデアを持ち、キャリントンでその実力は証明済み。
昨季のフレッヂがいい例であり、プレミアのプレースピードと強度に適応さえ出来れば(器用ポジションは別問題とする)、劇的に変貌する可能性を秘めている。
故に最大の課題である、フィジカル面でのサイズアップが期間中に叶っていることを期待したい。さしずめ2得点した先のテストマッチ(WBA戦)を観た限り、マッチフィットネスは良好に映った。
ペドロ・ネト
ウォルヴァーハンプトン・ワンダラーズ所属
2000年生まれの小柄なハードパンチャーは、同郷色の濃いウルヴスで着実に存在感を増してきている。
今季のスタート起用はわずか7試合ながら、120を数えるデュエルを挑む向こう気の強さと、破壊力抜群の左足に当たりが出始めれば、ウルヴスはトップ4入りも現実的な射程圏に捉え得るだろう。
ただし、このチームのアタッカー陣は豊富であり、モーガン・ギブス=ホワイトや冬加入のダニエル・ポデンセ、さらには⼀列前での起用も増えてきたルベン・ヴィナグレなど、Xファクターとなりうる候補が多いことも述べておく。
サンデル・ベルゲ
シェフィールド・ユナイテッド所属
全世界を驚かせたクリス・ワイルダーのブレイズは、冬のマーケットで更なるサプライズを起こした。
数多のメガクラブが入札を報じられた、今をときめくノルウェー産の大型ルーキーの加入は、ここまで順調すぎる戦いぶりを見せていたグループの改善、更なる野心のアイコンとなった。
走力を大きな資本とした“あの”特殊な流動性の高いスタイルを“スモールフットボール”とすれば、この195cmのソリッドなディフェンシブハーフはピッチ上の“ハブ”となりうるだろう。
そして聡明な判断力を持つこのタレントであれば、システマチックな難解戦術をこの期間中にインポートした上で、リーグ戦を完走するためのプランBさえもらたせるかもしれない。
ヤン・ヴェルトンゲン
トッテナム・ホットスパー所属
ジョゼ・モウリーニョという名前が、私の選択をより難しいものにした。
若きアイルランド産ポーチャーのトロイ・パロットを推したい気持ちもあったが、モウはこの境遇で彼をそこまで起用しないだろう。そしてなにより、今季スパーズの守備の脆さは無視できない。
ヴェルトンゲンはモウの構想から外されかけているが、ここからの戦いには彼の経験とリーダーシップが不可欠な事は明白だ。29試合で4つのクリーンシートも物足りないが、ゴールに直結するミスの数が7つあることは更なる驚きである。
守備が不調なチェルシーやアーセナルですら、こちらの数値は2と4。この“個人のミス”の連鎖に乗らず、チーム8年目の男が最終ラインをまとめ上げれるかは大きなファクターであろう。
キーラン・ティアーニー
アーセナル所属
リーズからレンタルバックしたエディ・エンケティアやガブリエウ・マルチネッリの顔も思い浮かんだが、問題の守備陣から若きスコットランド人を。
複数の怪我によりリーグ戦の出場はわずかに5試合ながら、彼の印象はポジティブなものである。参考試合が少なかったものの、位置どりを何度も修正しながら睨みを効かすようなクレバーな守備対応、中距離スプリントを含めたフリーランを厭わない姿勢は、ハル・シティ時代のアンディ・ロバートソンに似たそれを感じた。
そしてなによりその左足の精度を活かした攻撃参加は最大の魅力であり、プレータイムに開きはあれど、セアド・コラシナツとブカヨ・サカを上回るキーパス数(/時間)を記録している。
マチェイ・ヴィドラ
バーンリー所属
2017-18にダービー・カウンティで21得点を上げ、チャンピオンシップ得点王となった男は、前年のクリス・ウッド(リーズで2部得点王)の成功に続くようにバーンリーへ加入(今だにキックアンドラッシュに近いスタイルを敷くクラブが2部には多く、バーンリーがその手の選手を好むのは理にかなっている)。
闘争心剥き出しのハードなプレースタイルで攻守に奔走するが、最大の武器は左右両足を遜色なく使える事だろう。
中断前の26節と27節で連続ゴールを記録しており(セインツ戦ではスーパーゴール)、1点が欲しい場面において個で打開できるこの男の存在は、ショーン・ダイシのより大きな成功の⼀助となるはずだ。
ジャイロ・リーデヴァルト
クリスタル・パレス所属
アヤックス産のディフェンシブなマルチローラーであるこのオランダ人は、今季プレミアで途中出場を含む10キャップを記録している。
不名誉な形でクラブを去ったフランク・デブールの秘蔵っ子として獲得されたこの男は、ロイ・ホジソンの鍛え上げた守備ファーストのスタイルにおいて、ポジティブトランジションの号令役を、ルカ・ミリヴォイェヴィッチ不在時に任せる上での最適解ではないか。
中盤登録ながらバーサタイルに守備的ポジションをこなし、そのタイプにしては比較的ディエルにも強い(20/37勝利)。
未来のシーズンハイライトにこの男が頻出するようであれば、パレスはある程度の成功を掴んでいるだろう。
モイーズ・キーン
エヴァートン所属
最後のXファクター候補は、最も決めるに容易い選択であった。ユヴェントスで巨大な才能の片鱗を見せた男はここまで、イングランドの生活に馴染んでいるようには見えない。
だが、トラブルメーカーとして表に出てしまうこともあるキャラクターにとって、同郷の名将カルロ・アンチェロッティの就任は間違いなく追い風である。
恵まれた身体能力と、ストライカーに必要な狡猾さも兼ね備えたヨーロッパ屈指のスター候補は今、キャリアひとつめの岐路に立たされている。と同時にこれは、アンチェロッティ自身にとってもテストであると私は感じる。
多くのタイトルを獲得した名将であるが、私の意見では若手育成のイメージがそれほどない(無論カカをはじめ、皆無という訳ではないが)。この2人が、更なる進化を遂げる事は、エヴァートンの順位を上げ、プレミアリーグの終盤戦に大きなギャップと旋風を生む可能性すらあると私は感じている。
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以上、至極個人的な意見ではあったが、皆々様はいかがお考えであろうか。
シーズン終了時(まずは無事終了できる事を祈る)、これらが全くの愚見でったと判明しても、私は「予測不能なフットボールの真髄に触れた」とでも思うことにしよう。
そして、4年前と大して変わらぬ文章力に絶望感を覚えつつも、今宵のフットボールとの再会に胸を躍らせながら、ホイッスルを待つことにする。