アイルランド発の人工衛星「EIRSAT-1」 アンテナ性能試験を実施

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EIRSAT-1とは「Educational Irish Research Satellite 1」の略称で、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンの学生とスタッフがESAの教育プログラム「Fly Your Satellite!」に参加して作っているものです。EIRSAT-1は22×10×10cmと小型ですが、その複雑さでは標準的な宇宙ミッションに引けを取りません。

試験は新型コロナウイルスの影響によりEIRSAT-1の学生チームが立ち会わず、EIRSAT-1本体の模型とアンテナ展開モジュール(ADM: Antenna Deployment Module)に加え、詳細な試験手順を送る形で実施されました。人工衛星本体がアンテナ性能に影響を与えるのを避けるため、今回試験に使用されたのはESAのテストセンターであるESTEC(欧州宇宙技術研究センター)の「ヘルツ・アンテナ・テスト・チャンバー」という施設です。ここのテスト環境は金属の壁で覆われ、人工衛星からの信号があたかも宇宙を何千キロも旅してきたかのような状態のテストをすることが可能です。なお、施設の名称に使われている「ヘルツ」(Hertz)は「Hybrid European Radio Frequency and Antenna Test Zone」の頭文字を取っていますが、これは19世紀のドイツの物理学者であるハインリヒ・ルドルフ・ヘルツの名前になぞらえたものだと考えられます。周波数の単位であるヘルツ(Hz)のもとになった人物です。

EIRSAT-1はスコットランドのAAC Clyde Space社のプラットフォームを使用し、3種類の機器を搭載しています。1つは「GMOD」(Gamma-ray Module)と呼ばれるガンマ線検出器です。GMODは宇宙で発生するガンマ線バーストや地球大気での雷により発生するガンマ線をとらえます。EIRSAT-1プロジェクトのシステムズ・エンジニアであるDavid Murphy氏は「標準のガンマ線検出器はまだ真空チューブに頼っているのに対し、シリコンをベースとしたGMODはコンパクトです。テレビがブラウン管から平面になったようなものです」と胸を張ります。2つめは搭載「機器」ではありませんが、酸化物によるコーティングです。これはアイルランドのEnbio社によるもので、すでにESAの太陽観測衛星「ソーラー・オービター」でも採用されているため宇宙での実績はあります。しかし酸素原子の強い浸食にさらされる地球低軌道でも有効かどうかは不明で、EIRSAT-1はそれに関するデータを初めて収集することになります。3つめはEIRSAT-1が地球の磁場に対応して姿勢を制御する「磁気トルク」を操作するためのプログラムで、「ウェーブベースコントロール」と呼ばれる新しいアルゴリズムが使われています。これにより、柔軟な姿勢制御が可能になるといいます。

EIRSAT-1のプロジェクトチームが開発したアンテナ展開モジュールは非常にコンパクトで、高さわずか7ミリの構造からVHF・UHFアンテナを展開します。このモジュールはEIRSAT-1の打ち上げを模擬した振動試験や熱真空試験では問題なく、次の重要なステップとなっていたのがこのテスト・チャンバーでの試験です。アンテナは無重力状態で動作するように作られているため、地球の重力を受けた状態でも安全に展開できるようにプラスチック製の支えをつけてあります。プラスチックで作られたのは電波干渉を避けるためで、冒頭の画像で衛星の模型を木材で支えているのは同じ理由によるものです。なお、3つの「搭載機器」はすでに準備ができており、次のステップでは「認定モデル(認定試験モデル)」(Qualification Model)と呼ばれるプロトタイプの試験が今年の後半に行われる予定です。その後は2021年前半にESAに届けられるのに先立ち、年末に「フライトモデル」の準備が行われます。

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Image: ESA-P. de Maagt
Source: ESA
文/北越康敬