岡部まり「丸井サウンドロフト」赤いカードとフィッシュボーンの誘惑 1985年 9月21日 フィッシュボーンのミニアルバム「フィッシュボーン」がリリースされた日

VJ は岡部まり、フジテレビの深夜番組「丸井サウンドロフト」

右も左もわからないまま上京して大学生活を始めた田舎者を待つ罠…… というと大げさだが、思い返せばいろいろあったかもしれない。まあ、だいたいは切り抜けた。学生運動的なサークルの勧誘をやり過ごし、怪しい募金には寄付しなかった。そもそも貧乏だから、こっちに寄付して欲しいくらいだ。しかし貧乏生活にも罠は忍び寄る。丸井のカード、通称 “赤いカード” である。

東京に来て、田舎では放映されていないTV番組をたくさん観ることになったが、中でも深夜の番組は新鮮だった。そのひとつが、平日の夜に連日放映されていた『丸井サウンドロフト』。10分ほどの短い番組だったが、洋楽のビデオを流してくれるのでちょくちょく見ていた。が、何をそこで見たかの記憶はほとんどなく、VJの岡部まりが、ひたすらかわいかったことしか思い出せない。

オープニングはフィッシュボーン「パーティ・アット・グラウンド・ゼロ」

いや、もうひとつ鮮明に思い出せるのが、番組のオープニング曲となったフィッシュボーン「パーティ・アット・グラウンド・ゼロ」。小気味よいギターのカッティングで始まる、ノリノリのナンバー。スカのトッぽさが妙にオシャレに思えたのは、スポンサーのイメージのおかげもあったのかもしれない。

そう、この番組スポンサーはタイトルどおり、“OIOI” でおなじみの丸井であった。田舎には丸井はなかったので、上京して初めてその存在を知る。最初は田舎者の定石どおり “オイオイ” って何だ!?…… と思ったりもしたが、とりあえず最先端ファッションのデパート的なものであることが、なんとなくわかってくる。時折しも、DCブランドの全盛期。

「ジャケット一着に5万円払うなら、レコードを20枚買う方を選ぶなあ…」などと考えていた田舎者のオタクも、ほどなくDCブームに飲み込まれてしまう。高い服も、カードで買えば分割払いができる。それにイイ服を着れば、岡部まりに近づけるかもしれないじゃないか!…… という浅はかな思考で赤いカードを作ってしまった。

赤いカードとの決別、そして正しきレコードオタクの道へ

いやー、その後の展開は、多くの方にも記憶があるだろう。月々の支払に追われる、あのやるせなさ。当たり前だが、単に支払いを先延ばしにしているだけなので、ツケはきっちり回ってくる。カードでキャッシングをして支払いに充てたりすると、さすがに「これはダメだ!」とわかってくる。少なくとも岡部まりに惚れられる男のすることでない。

定期のバイトをするようになったことで2年ほどでクレジットの連鎖を断ち切り、赤いカードは解約して、ハサミでちょっきん、ごみ箱へ。レコードオタクはレコードオタクの正しい道へと戻ることになった。買おう買おうと思って後回しにしていた、フィッシュボーンの「パーティ・アット・グランウンド・ゼロ」収録のミニアルバム『フィッシュボーン』も入手。

しかしまあ、本当にかっこいい。ライナーノーツによると、“Party” は文字通りの “パーティ” 以外に、“バラバラに(なった)” という意味があるという。爆心地(=グラウンド・ゼロ)で真っ赤な血や臓物が飛び散った光景を歌っている…… と、ボーカルのアンジェロ・クリストファー・ムーアは語っている。真っ赤なカードで自爆しなくて、本当によかった…。

いや、あの赤いカードのお陰で、クレジットとの付き合い方が慎重になったのも事実。人生の比較的早いうちにそれを勉強をさせてくれた丸井には、ある意味、感謝をしている。結局、あのときに購入したジャケットは20年以上、着続けられたのだから、品質は確かに良かったのだろう。一方で、我が家のフィッシュボーンのレコードは30年以上も我が家のレコード棚に収まり、今もときどきトッぽいビートを鳴らしてくれる。

カタリベ: ソウママナブ

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