「新型コロナウイルス×地震・水害」の複合災害がヤバい! よくある防災グッズ・避難グッズのカン違い

新型コロナウイルスの再燃と、地震や水害など自然災害が重なる「複合災害」が起きると、どうなる!? という不安が高まっています。各自治体では避難所に収容できる人数を減らしたり、災害用テントを導入したり……と、なんとか感染拡大を防ごうと対策をたてていると報じられていますが、いざ災害が起これば、混乱必至! 国内外のさまざまな被災地で救助活動を行ってきた、国際災害レスキューナースであり、『プチプラ防災』の著者である、辻直美さんは「災害や防災に対する勘違いが、助かる・助からないの明暗を分けます」と指摘します。ウィズコロナ時代だからこそ、すみやかに改めたい4つの勘違いをさっそく見ていきましょう!

【カン違い:その1】新型コロナウイルス流行時でも避難所に行くべき

新型コロナウイルスの流行下で、災害が起きたらどうなるのか。避難所で果たして“三密”が防げるのか? と不安を覚える人も少なくないでしょう。しかし、辻さんは「新型コロナウイルスの流行以前から、災害が起きるたびに避難所では感染症が流行してます」とキッパリ。被災時は体力が落ちやすく、誰もが風邪やインフルエンザ、胃腸炎などの感染症にかかりやすくなるそう。しかも、治療を満足に受けられる環境ではないことも多く、重症化もしやすい。辻さん曰く「もともと感染症が起きやすい環境な上に、さらに新型コロナウイルスが加わると考えた方がいい」のだとか。

■知っておきたい避難所の現実

・避難所は定員が決められており、先着順。定員オーバーになれば入れない
・与えられるスペースは一人につき、1畳程度
・仕切りもない中、見知らぬ他人と寝泊まりする
・感染対策をしていても、避難所では感染症が流行る
・災害の状況によっては、水すらもらえないこともある

「自宅避難」の選択肢がとれるよう、日頃から備えておくことが大切です。というのも、いくら地盤が強い土地に済んでいても、地震で部屋がぐちゃぐちゃになってしまえば、避難せざるを得なくなります。日頃から、部屋を片づけ、ものの少ないシンプルな暮らしを心がけることも、災害に強い家づくりにつながります。

【カン違い:その2】「72時間」さえ生きのびれば、元の生活に戻る

災害後の72時間はよく、「命の72時間」と呼ばれます。これは、何も食べなくても生きていける“命のデッドライン”という意味。ところが、「復旧するタイミングと勘違いしている人が多い」と、辻さんは指摘します。復旧には時間がかかり、インフラが回復するまで1か月以上かかることも珍しくありません。

■首都直下型地震などによる東京の被害想定(内閣府)

ライフラインの復旧目標日数は……
●電気 6日
●上下水道 30日
●ガス 55日

また、行政のフォローが始まったとしても、その範囲は「最低限生きていける程度」と限定的です。実際はもっと時間がかかることを想定しましょう。被災前と同じレベルの生活を求めるなら、自分で食べものや飲み物、その他必要な生活用品を用意しておくことが必須。それによって、生き延びられる確率も上がります。

■いざというときに備える「備蓄」のコツ

・家全体が「備蓄庫」と考える
・最低でも、10日分程度の水や食料をストックしておく
・乾パンなどの防災食より「ふだん食べているものちょっと多めに」確保するのが◎
・賞味期限が近いものを食べながら補充する「ローリングストック」を心がける
・1日に必要な水は、1人あたり3ℓ(そのうち、2ℓは飲用水、1ℓは生活用水)
・水はすぐとりだせるよう、リビングや寝室、玄関収納などに分散して収納

辻さんの場合、「日頃から10日分程度をストックしておき、台風や大雪の予報が出たら、さらに7日分補充する」というスタイル。つい、乾パンなど日持ちする防災食にひかれるが、「食べ慣れたもののほうが被災下の沈みがちな心を支えてくれる」のだとか。

【カン違い:その3】防災グッズは専用アイテムを揃えておくべき

辻さん自身、 万能ナイフ、防災笛、ソーラーライト、コンパスの“四種の神器 を常に持ち歩いている

新型×地震・水害の複合災害に立ち向かうには、どんな防災グッズを買いそろえておけばいいのでしょうか? そう尋ねると、辻さんの答えは「“防災=防災グッズを買うこと”という考えは捨てましょう!」とキッパリ。たくさん買っても使いこなせなければ、意味がないと言います。たしかに……。

辻さん自身は万能ナイフや救助用のロープ・カラビナなど、“命綱”になりうるグッズにはお金をかける一方、「ソーラーライト」や「コンパス」「防災笛」といった多くのアイテムは100均(100円ショップ)で買いそろえているとか。さらに、ゴミ袋や新聞紙、ペットシーツなど複数の用途に使えるものを上手に使い回すのもポイントです。

■知っておきたい、防災グッズの代用アイディア

・給水用のポリタンク
二重にしたゴミ袋(45ℓ)をリュックサックにセットすればOK。持ち歩きもラク

・災害用トイレ
ゴミ袋(45ℓ)を便器にセットし、ペットシーツ、ちぎった新聞紙をセットするだけ。ゴミ袋を縛る前にハッカ油を振りかけるとニオイ対策にもなる

・携帯用ウォシュレット
「穴を開けたペットボトルのキャップ」があれば、水を入れたペットボトルが「ウォシュレット」に早変わり。陰部を洗い流せるので感染症予防に◎

【カン違い:その4】自宅に備蓄が十分にあれば、非常用持ち出し袋は不要

自宅避難するつもりでいても、災害の状況によっては避難が必要になる可能性もあります。「避難所にさえ行けば、水や食料など避難生活に必要な物資はもらえる」というのも、よくある誤解のひとつ。食料や水はもちろん、感染症を防ぐためのマスクや消毒液、石けんといったアイテムも、自分で用意するのが大前提です。

さらに、「必要なものはあとで家に取りに帰ればいい」という発想は百害あって一利なし。辻さんによれば、「揺れが収まったと思って帰宅したときに、もろくなっていた家が倒壊し、巻き込まれて亡くなるケースが非常に多い」のだとか。いったん避難所に行ったら、しばらくの間は帰れない覚悟が必要なのです。

■辻さんの「非常用持ち出し袋」の中身

辻さんが常備している防災グッズの中身。オススメの防災グッズリストとして参考にしてほしい

・ミネラルウォーター(ペットボトル)
・万能アイテム(ペットシーツ、新聞、レジャーシート、タオル、エア枕・クッション、ラップ、アルミホイルなど)
・最低7食分の食料(レトルト食品、缶詰、パスタソース、米、早ゆでスパゲティなど)
・充電、照明(LED懐中電灯、手回し充電ラジオ、モバイル充電器など)
・救助アイテム(ロープ、布ガムテープ、油性マジックペン、軍手など)
・医療&衛生用品(消毒液、うがい薬、救急セット、トイレットペーパー、使い捨て下着等)
・防寒&暑さ対策(レインジャケット・パンツ、アルミ製シート、使い捨てカイロなど)
・3日分の着替え

辻さんは、いつでも持ち出せるように下駄箱にアルコール消毒ジェルを用意。手に取りやすいようにペットボトル用ストラップを付けている

とくに、手指消毒ジェル(アルコールを含んだもの)やマスク、固形石けんは感染症対策の必須アイテム。辻さんは避難時に持ち出せるよう、玄関に置いてあるアルコールジェルのボトルに、ペットボトル用ストラップをつけて置いてあるそう。

さらに、500mlのペットボトル飲料(ミネラルウォーター)のほか、塩飴やチョコ菓子、常備薬、使い捨てコンタクトレンズなど「生きていくのに欠かせないもの」は常にバッグに入れて持ち歩くそう。「自宅で被災するとは限りません」というのがその理由。万能ナイフ、防災笛、ソーラーライト、コンパスの“四種の神器”は、子どもたちにも3歳から持たせていたと振り返ります。自分にとっての必需品を考えてみる。それが「命を守る備え」につながります。

取材・文:島影真奈美

辻直美

国際災害レスキューナース。一般社団法人育母塾代表理事。看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚める。看護師歴28年、災害レスキューナースとしては25年活躍している。被災地派遣は国内19件、海外2件。被災地での過酷な経験をもとに、本当に使えた防災術を多くの人に知ってほしいと、大学での防災に関する講義・講演や、小中学校での授業を精力的に行っている。2015年3月から1年間、毎日新聞夕刊・関西版で防災についてのコラムを執筆。現在、大阪市防災・危機管理対策会議で防災専門家として活動中。大阪市福島区被災地学習選定委員も務めている。レスキューナースの活動と並行して、「たった3秒で赤ちゃんが泣き止む」と話題の「まぁるい抱っこ」を提唱。子育てに悩む母親たちから絶大な支持を得ている。

インスタグラム:辻直美@プチプラ防災

著作:『レスキューナースが教える プチプラ防災』(辻直美著・扶桑社刊)

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