なぜふるさと納税にこだわり続けるのか 大阪・泉佐野市長、最高裁判決前に全て語り尽くす

By 助川 尭史

インタビューに答える大阪府泉佐野市の千代松大耕市長

 ふるさと納税の新制度への参加を巡り、除外された大阪府泉佐野市と、制度を運用する総務省との法廷闘争が最終局面を迎えた。同省は、返礼品にアマゾンギフト券などを贈って多額の寄付金を集めた市の手法を理由に除外し、大阪高裁判決は「対価を求めない『寄付』が原則の制度の枠組みに反する」と全面的に追認したが、上告審は高裁の結論変更に必要な弁論を開き、判決が見直される可能性が出てきた。市は制度への早期復帰を望むが、なぜここまでふるさと納税にこだわるのか。「寄付額を増やすためなら何でもありなのか」との批判にどう答えるのか。6月30日の最高裁判決を前に、千代松大耕(ちよまつ・ひろやす)市長に聞いた。(共同通信=助川尭史)

 ―昨年6月に新制度から除外されて1年たちました。2018年度には全国最多の約497億円を集めた寄付金は何に使われたのでしょうか。

 いろんな事業に活用していますが、大きいのが関西空港の連絡橋にタンカーが衝突するなど、市全体に大きな被害があった18年の台風21号の災害対策です。被災した住宅の修繕や解体費の補助に活用しています。

 また、多額の寄付を理由に特別交付税が3度にわたり減額されました。交付税の多くを運営費として充てていた新型コロナウイルス対策の重要な拠点病院でもある「りんくう総合医療センター」は非常に厳しい状況が続きますが、その経営安定にも使っています。

 ハード面では小中学校へのプール整備など教育施設の充実や、今年1月に開業したフィギュアスケートの国際大会で使用できるリンクを備えた関空アイスアリーナにも多く投入しています。

 ―制度から除外されたことで、これまで返礼品を提供していた業者への影響が懸念されていました。

 新制度直前のアマゾンギフト券を使ったキャンペーンで一定の受注を確保していたので、3月末までは安定した状況でした。ただ4月からはキャンペーン分の底が尽きた上、新型コロナでの消費の落ち込みもあり、ダブルで影響を受けている状況です。

 市でも、中止になった花火大会などのイベント開催費に充てる寄付を、利用者が激減している宿泊施設に最大100万円の支援金を給付する事業に回すなどしています。ただ新制度に参加していれば医療機関への支援を求めるクラウドファンディングとか、大阪府でしているような、市民からの寄付をふるさと納税として受け入れる基金の設立など幅広い展開ができたと思うと残念です。

 ―6月2日の最高裁の弁論では、異例の意見陳述を行いました。

 独特な雰囲気で緊張しました。本来ならば棄却という判断も十二分にあり得たわけですから、弁論を開いていただいたことは非常にありがたく思っています。

泉佐野市のふるさと納税を巡る訴訟で、上告審弁論が開かれた 最高裁第3小法廷=6月2日午後

 そもそも今回、訴訟にまで発展してしまったのは、市が国の通知に従わず地場産品以外の返礼品をラインアップしたこともありますが、法改正でなく技術的助言に過ぎない通知で全国の自治体を抑え込もうとした総務省の責任が非常に大きいと思います。

 ―他の自治体からは、アマゾンギフト券などを使った寄付募集への批判も根強いものがあります。昨年11月~今年1月に共同通信が全国の自治体に実施したアンケートでは一部に集中していた寄付が分散したことなどを理由に、寄付額が増える見込みと回答した自治体が45%、泉佐野市を含めた4自治体の除外を支持すると答えたのは60%に上りました。

 それぞれの考え方です。「集めすぎやぞ」との声も確かにあるでしょう。4自治体が新制度から抜けた分、寄付が分散して全体の寄付額も増えているなら、それは良いことだと思いますし。ただ、泉佐野市のやり方に納得できないと言われるのは、「それなら頑張ったらどうですか?」と返したい。機会は今まで十分あったはずです。

 返礼品を地場産品に限る規制により、がんばれる要素があるかどうかで自治体は分けられてしまいます。その隙間を埋めるアイデアに力を入れたのが泉佐野市でした。

 ―市が反対する地場産品規制や返礼品を寄付額の3割以下に限定する法改正も、71%が「妥当」「おおむね妥当」と回答してます。多くの自治体は自由な競争より、一定のルールを求めているのではないでしょうか。

 返礼品を寄付額の3割以下に抑えるという点は、全国で守られるのであれば賛成します。地場産品規制は地域資源の有無で格差を広げると思っていますが、賛同が多いのは、うちみたいな自治体が出てくるのを防ぎたいからでしょうか。今の条件では入ってくる寄付が出て行く寄付を逆転できない自治体も、賛同されているんですか。

 ―賛成の主な理由として「過度な返礼品競争が抑制される」「『地域の応援』という趣旨に合った寄付につながる」との意見が出ています。多くの自治体が、地元に縁のない品での寄付募集に違和感を覚えています。

千代松市長

 泉佐野市は制度が掲げる理想に向け、総務省が推奨した起業家支援型のクラウドファンディングにも挑戦してきました。ですが実際には、肉やカニや米が選ばれている現実がありました。

 (規制に賛同する自治体は)自分たちがどれだけ頑張らなきゃいけないかを、あまり突き詰めて考えていないのかな、というのが正直な感想ですね。新制度下でも、東京都世田谷区とか首都圏の自治体は寄付金が流出する一方のはず。地場産品規制がある中で何がお礼の品にできるのか、悩むと思うんですけどね。

 ―そもそも税金はサービスを受けただけ払う「応益負担」の原則があり、「取られたら取り返す」ような発想に疑問を感じる自治体もあります。

 それは、制度の導入段階から懸念されていた問題です。ふるさと納税の基本姿勢は、地方と都市部の税収格差の是正です。制度が定着したのは、サービスを受ける自治体よりも、魅力的な品物をそろえている他の自治体に寄付をし、返礼品をいただいた方が良いという国民の選択があったからじゃないでしょうか。

 ―今年3月には多額の寄付を集めていた高知県奈半利町でふるさと納税を巡る収賄事件も表面化しました。高所得者ほど多額の寄付ができ、多くの返礼品を手に入れられてしまう問題も残っています。一部の自治体や寄付者に利益が集中する制度のひずみ解消のために、新たな規制を求める声もあります。

 こんなことを言うのも何ですが、地場産品規制がある現状で、寄付が一部に集中することはないと思います。泉佐野市では、多種類の返礼品をそろえることでリピーターを増やしました。返礼品が泉州タオルだけだったら何度も寄付しようという人はいないでしょう。

千代松市長

 規制はもっと柔軟なものに変えていくべきです。例えば、地場産品でなくても人気の集まる品はどの自治体も扱えるようにし、幅広く興味をもってもらうことで消費拡大につなげる制度にすべきです。

 また高所得者への寄付規制と言いますが、消費税の軽減税率でも同様に所得が高い方が有利になる設計になっています。一概にふるさと納税制度だけには言えないはず。現状のままで十分です。

 ―裁判を通して、国と地方は主従関係ではなく対等だとずっと言ってきました。規制の批判だけでなく、制度が良くなるよう提言する姿勢も大事ではないですか。

 これまでも「おかしいんじゃないか」と総務省に強く言っているつもりですが、向こうがすんなりと歩み寄ってこなかったが故に、やむを得ず司法の場で争っているのです。総務省には、建前的には対等と言いつつも国が主導権を握っているとの思いがあり、紙切れ1枚の通知を出せば地方は言うことを聞く、と思ってきたのでしょう。

 国の言うことを聞いてきた自治体は多いですが、本心で納得できない部分も大きいと思います。一緒になって頑張ろうという自治体が現れるなら、手を組んでやっていきたい。意見を交換しながら幅広くもの申す機会ができればいいですね。

 ―新制度への参加が認められた場合、どんな戦略で取り組みますか。

 裁判の結果がどうであれ、法令にのっとって返礼率3割、泉佐野の地場産品のラインアップで申請したいと思います。

 ふるさと納税で多くの人に泉佐野市を知ってもらえました。「一度行ってみたい」と思ってもらえるように、コロナ禍で打撃を受けた地元の温泉の宿泊券や、ホテルの食事券とかを充実させてダメージを少しでも和らげたいですね。

 あとは泉州タオルや地元特産の泉州野菜も出します。野菜は実は以前から人気だったんです。ただ市内にある規模の農家で出せるのは少量で、すぐ売り切れになってしまうのが難点。今更、農地を広げるわけにいかず、対応は今後の課題です。

 ―多くの批判を受けながら最高裁まで争い、制度の不備を訴えてきました。除外決定が取り消されたとしても、問題点が改善される訳ではありません。あえて抗議の姿勢を貫いて新制度には不参加を貫く選択肢はないのですか。なぜそこまでふるさと納税にこだわるのでしょうか。

ふるさと納税の新制度を巡る訴訟の上告審弁論のため、最高裁に 入る千代松市長(手前左)ら=6月2日午後

 行政のメンツで言えば、(参加しない選択肢は)正しいですが、くだらないと思いますわ。日々の生活がある事業者のことを考えて一日も早く復帰したいです。

 私が市政を引き継いだ時は財政健全化団体で、悠長なことを言っていられない破綻寸前の町でした。職員の給料も削って爪に灯をともすような思いをしてきました。裕福な町が(寄付金集めに)必死になっているなら、疑問に思われるかもしれませんが、うちは何を言われても構わないです。

 財政健全化団体から脱却できた直接的な要因ではありませんが、次のステップとして泉佐野市を近隣自治体並みの行政サービスまで引き上げていく、また、今までなかった事業を展開していくのに、ふるさと納税を抜きにしては語れません。

 ふるさと納税のおかげでやっと上向いてきた時に、総務省に紙切れ1枚で頭を踏みつけられた。許せないですよね。新制度が抱える問題点は今後も提言していきます。うちのスタッフは日本一のチーム。厳しい規制の中でも結果を残してくれると信じています。まずはレースに参加させてください。

 千代松大耕(ちよまつ・ひろやす) 1973年生まれ。泉佐野市出身。同志社大経済学部卒業後、会社員を経て2000年泉佐野市議会議員に初当選。市監査委員、市議会議長などを歴任し、11年4月に泉佐野市長に就任。現在3期目。

関連記事はこちら

ふるさと納税日本一の寄付金は何に?

© 一般社団法人共同通信社