新著「奥津典子の台所の学校」 暮らしの知恵、分かりやすく紹介

「奥津典子の台所の学校」

 「例えば食材を選ぶとき、体にいい、悪いという情報、つまり頭だけで判断するのではなく、実際に自分の体はよくなったのか、体は喜んだだろうか、ということを大事に考えてほしいんです。同時に、食べられた素材という命が『納得してくれたかな』ということを考えてほしい。食べものは命なのに“もの”として扱われていることが、とてもよくないと思います」
 雲仙市小浜町在住の奥津(おくつ)典子さんが、食や健康をテーマにした新著「奥津典子の台所の学校」(WAVE出版)の中で提案するのは、料理など日々の暮らしをもっと楽しもうということ。新型コロナウイルスが、生活に大きな影響を及ぼす今、奥津さんが提案する食に対する考え方や体との向き合い方は、新しい生活様式を考える上でも参考になる。
 奥津さんにとって8冊目の著書となる本書は、各章を授業に見立てた6部構成。1~6時間目までのテーマは、それぞれ「道具」「ごはん」「身体」「四季」「健康」「家族」。イラストやレシピ、カラー写真を盛り込みながら、季節に合わせた暮らしの知恵を分かりやすく紹介。各授業の後のコラム「休み時間」では、体温、唇、関節などの状態から自分の体調を知るヒントを伝授する。
 1時間目の「道具」では、まな板、包丁、鍋など、料理に欠かせない道具について、種類や使い方、手入れ法を紹介。3時間目の「身体」では、さらに道具の持ち方や使うときの姿勢、素材を生かす野菜の切り方や、肉や魚の下処理のこつを具体的に説明する。
 「台所は幸福と健康を創出する場。いろんなことを学べる学校だと思う。家族みんなで、台所で感動を分かち合ってほしい」。新著には、台所を好きになってほしいという著者の願いが込められている。
 奥津さんは、1974年生まれ。東京と長崎で育った。学生時代から、日本と米国で食や環境、民間療法などを学んだ。結婚し、東京で夫と「オーガニックベース」を立ち上げ、教室やカフェ、企画などさまざまな仕事をしてきた。2013年に家族で雲仙市に移住。昨年秋、千々石町にオーガニック野菜の直売所タネトを夫婦で開設。農薬を用いず、種を取る生産者との出会いが同市に移住した理由の一つだったという。東京・吉祥寺と長崎を拠点に通学とオンデマンドの教室「台所の学校」を開いているが、現在は新型コロナの影響もあり、オンライン講座が中心。
 「コロナの影響で通学講座は不可能です。とても大切なものを手放すときかもしれませんが、流れに身を任せるしかないのかもしれません」と厳しい状況にある。それでも、前向きにとらえたいという。「4月の自殺者が減ったと聞きます。これまでの拘束から離れて得られることもあるということ。絶対こうしないと生活できないとか、こんなふうに働かなければ成り立たないとか、頭の中で思い込んでいたことが、コロナをきっかけに壊されるのはいいことでもある。自己保身に陥らず、子どもたちのために大人は挑戦していくべきですね」
 「奥津典子の台所の学校」は、四六判、208ページ。1760円。

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