男心を惑わせる、ストリート・スライダーズの危ない魅力 1988年 6月22日 ザ・ストリート・スライダーズのアルバム「REPLAYS」がリリースされた日

実は… こっそり聴いていたストリート・スライダーズ

なぜそうなったのかはわからない。僕には、好きになって聴き始める音楽はサウンド以前に、ある変なルールみたいなものがふたつあった。まず、人気があるアーティストやバンドは聴かないとうこと。もうひとつは人に勧められた音楽は聴かないというものだ。

「俺はメジャーなものは聴かないよ」と格好つけていただけのことで、例えばRCサクセションや佐野元春などがその聴かない音楽にあたる。友達がCDを貸してくれると言うのに、借りない。じゃあまったく聴かないのかと言うと、嫌いではないのでこっそり聴く。なんともかったるい聴き方だ。そんな風に回りくどい聴き方をしたバンドのひとつにザ・ストリート・スライダーズがあった。

レコード店でアルバイトをしていた頃のこと。バイトを始めて数ヶ月ほど経つと仕事にも慣れ、バイト友達とも親しくなり、調子に乗って自分の好きなCDを店頭で流したりするようになった。その時によく聴いていたのがストリート・スライダーズだった。ここぞとばかりに店頭に並んでいるスライダーズのCDを片っ端から聴いたもんね。

「Boys Jump The Midnight」には人を突き動かす力があるのか?

「Boys Jump The Midnight」が流れれば意味もなくバイト仲間を蹴飛ばしたくなるし、お釣りの小銭のことを「コイン」と言いたくなったり。中でも好きだった曲が「風が強い日」で、仕事中なのについ遠い目をしてしまったり。スライダーズに僕の男心はしっかりとくすぐられていた。

そんな風にバイト先でストリート・スライダーズを聴いているうちにふと気になることが生まれた。店頭でスライダーズを流すと万引が増えてないか? ということだ。なんの根拠もなくただそんな気がするだけだったのだが。

ある日、発売されたばかりのベストアルバム『REPLAYS』を聴きながら仕事を始めたその数分後、何気なく店内を見回すと出口付近にいた少年と目があった。あっ! と思った途端に入口に設置された万引き防止システムが反応して警報音が鳴り響いた。ダッシュで少年を捕まえ確認すると、カバンの中から会計前のCDが出てきた。店内には「♪ ボーイズ!ジャーンプ!ミッナ~イ!」とハリーの歌声が響く。

「少年よ、こんなところでチンケなジャンプをしてはいけないよ」と思いつつ、やっぱりスライダーズには人を突き動かす力があるのだろうか… いやいや、あれは僕がいけなかったのかもしれない。どうしてあの時『REPLAYS』を選んでしまったのか? 「風が強い日」を流していればあんなことにはならなかったのではないだろうか。そんな後悔をしながら、でもきっと今頃あの少年は別の世界で逞しく羽ばたいていると信じてやまないのだ。

※2016年10月30日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: やっすぅ

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