コロナ禍で迎えたプロ野球開幕 無観客試合で求めた「臨場感」とそれぞれの音

無観客のスタンドには球音が響いた【写真:荒川祐史】

開幕3連戦を終え、ホームの利を生かして巨人は12球団唯一の3連勝、パはビジターが勝ち越し

特別な開幕戦となった6月19日。野球のある生活が戻ってきた。7月10日からは観客を入れることを目指していくという。コロナ禍で迎えたプロ野球。各球団、球場ともに様々なところに配慮して、迎えた開幕だった。実際に球場の中に入って記者が聞いて、感じた「音」について伝えたい。

リーグ連覇を目指す巨人は阪神を相手に本拠地・東京ドームで3連勝を飾った。東京ドームの場内演出は多岐に渡った。ユニホームなどが座席にかけられ、オレンジと黒に染まった。プレーボールの直前には「六甲おろし」と「闘魂込めて」が順番に応援団の映像つきで流れた。試合中は本拠地の巨人だけでなく、阪神ファンの応援メッセージも表示。“おウチ観戦”するファンと時を共有するためだった。

巨人が得点圏に走者を進めると、誰もいないはずのスタンドから“声援”が……巨人のチャンステーマ「バタフライ」が聞こえてきた。場内のスピーカーから発せられた“声援の録音”はライブ映像でもはっきりと届いていた。得点が入れば、ファンがオレンジタオルを回して、盛り上がる「ビバ!ジャイアンツ」も流れ、新外国人選手のパーラの時には動揺「ベイビー・シャーク」が流れ、両手を上下に小刻みに動かす「サメ・ダンス」を愛らしく踊る助っ人の姿も映し出された。

他にも球団のインスタライブでは「ジャビット&ヴィーナス放送席」と題して、球団マスコットキャラクターとダンスで魅了するマスコットガールらが、巨人のキャンプ中継などを実況する阿出川浩之アナと一緒に東京ドーム内の空気感をトークと華麗なダンスで伝えた。インスタライブにはのべ2万人が参加。読売巨人軍・営業企画部の坂東秀憲さんは「いかに臨場感を味わってもらえるか。こういう時だからこそ、ファンの皆様のことを一番に考えないといけません」とスタッフ一丸となって、ファンを楽しませるための「臨場感」を求めた。

西武・山川には幼児の愛のあるメッセージが鳴り響いた「がんばれ。どしゅこ~い!」

ソフトバンクとロッテが対戦したソフトバンクの本拠地PayPayドームではファンから募集した応援ボードがスタンドに掲出され、応援団が使う横断幕も外野スタンドの後方に張り出された。2戦目からはホークスの攻撃時に応援歌を流し、翌日には打席に立つ選手ごとに、それぞれの応援歌を流す仕様に改善された。

右翼スタンドの一角には人型ロボットの「Pepper」が配置され、7回攻撃時の「いざゆけ若鷹軍団」が流れる際には一糸乱れぬダンスを披露した。SNSでもこの様子が広まると、大きな反響を呼んだ。オフィシャルダンス&パフォーマンスチームの「ハニーズ」も無人のスタンドで、テレビで応援するファンに向けてパフォーマンスを行っていた。

そして無観客試合で最大の醍醐味だったのが選手たちの発する「音」だ。試合中は“元気印”の松田宣や川島が大きな声で投手やチームメートを鼓舞する声が響き渡り、改めてチームを盛り上げるベテラン2人の偉大さを実感。また、特大の140メートル弾を放った柳田が「ヴワッ」と呻く声や、これに驚くチームメートの反応がストレートに伝わってくるところもまた楽しいものだった。

西武はメットライフドームの内野席の座席にファンから募集し送付してもらった応援ボードを置き、外野芝生席には同じく送付された応援フラッグを敷いた。登場曲、男性DJの選手紹介、ウグイス嬢によるビジター側選手紹介などは、例年の公式戦通り。日本ハム戦試合前の名物“杉谷イジリ”は、開幕3連戦のうち初戦のみ、行われた。7回の攻撃前には、チアグループ「ブルーレジェンズ」とマスコットのレオとライナが観客席コンコースでダンスを披露していた。

親会社系列の一部プリンスホテルでは、応援宿泊プランを設定。オリジナルグッズ、選手プロデュース弁当付きで、オンライン会議システムを利用してファン同士でコミュニケーションを取りながら応援できる。また、事前に送信した応援メッセージ動画をメットライフドームのビジョンに投影できるサービスもあり、実際、イニング間に、幼児が「やまかわせんしゅ、がんばれ。どしゅこ~い!」と叫ぶ動画などが流れていた。選手にも届いただろう。

ホームチームだけに流れる得点機の応援歌に関しては、球音を純粋に楽しみたい、ビジターチームの選手やファンへの配慮の欠如、などいう意見も出たが、この前例のない“特別な開幕”に必要だったのは、来場できなかったファンをどう楽しませるか。各球団が臨場感を突き詰めた形だった。場内演出の音、選手らから発せられる声、それぞれの音が臨場感として、野球ファンとスタジアムの距離を近づけた。ファンは野球のあるありがたさを感じ、一日でも早く、球場で観戦したいという気持ちを高ぶらせたのではないだろうか。待ちわびるその日は、少しずつ近づいている。(Full-Count編集部)

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