『今宵、212号室で』演出目線で観るにはうってつけ

(C) Les Films Pelleas/Bidibul Productions/Scope Pictures/France 2 Cinema

 キアラ・マストロヤンニ主演のフランス映画だ。夫に浮気がバレて向かいのホテルに逃げ込んだ大学教授のもとに、若き日の夫や浮気相手の学生たちが次々と現れ…。ストーリーだけ追えば、キアラのために撮られた映画と言える。若いイケメン俳優たちから言い寄られ、ベッドでの絡みも多いから。言い換えれば、中年女性の夢と願望が詰まっているわけだ。

 だが、演出に目を向けると、全く別の顔が浮かび上がる。少なくともこの監督は、キアラを喜ばせたくて本作を撮ってはいないはず。先に映画的なシチュエーションありきで、そこから逆算して書かれたストーリーであることが透けて見えるのだ。ここまでくるとさすがに鼻に付くし、品がない。何事もやり過ぎはよくない。

 それでも、ホテルと夫がいるアパルトマンの窓を介した空間性、セットを活用した部屋と部屋の移動撮影やドアの演出、過去と現在、現実と幻想の凝った行き来…“映画ならでは”があふれている。中でも注目してほしいのが、浮気がバレた直後の夫婦の会話だ。会話は絵にならない。だから、一流の映画作家ほど“会話をどう見せるか”にこだわる。ここには、そのあざといくらいに分かりやすい正解がある。書棚の本を取るため脚立に上がったり、床に座り込んだり、どちらかを喋りながら移動させ、目線の高さを交互に換えることで生まれる映画的な空間。演出目線で観るにはうってつけの映画なのだ。★★★★☆(外山真也)

監督・脚本:クリストフ・オノレ

出演:キアラ・マストロヤンニ、ヴァンサン・ラコスト

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