リモートワークの落とし穴は「若手の育成」と識者が指摘 新型コロナ時代に求められる新たなマネジメントとは

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新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐため、多くの企業が取り入れたリモートワーク。

むしろ効率的に仕事ができるようになったと感じる人がいる一方、仕事がしづらくなったと感じる人もいた。さらに、今回は休校・休園の問題も加わったため、子育て中の人は、両立の悩みも抱えることになった。

感染防止はもちろん、介護・育児中の社員が効率的に働けるなどのメリットがあるリモートワーク。しかし、識者は「落とし穴」を直視し、リモート前提時代のマネジメント手法のアップデートが必要だと指摘する。

新しい時代や、第二派到来に備えて、組織にはどんな取り組みが必要だろうか?

「ワーキングマザー&ファザー会」

オンライン旅行会社のエクスペディア・グループ日本法人では、3月半ばから全社員在宅勤務体制に。業務は、以前から使用していたチャットツールやビデオ会議を利用して行われることになった。

しかし、3月末ごろから全国で学校や保育園が続々と休校・休園に。リモートワークに加えて、子供を自宅で見ながらという環境に追い込まれた社員も出始めた。そこで、4月末、有志メンバーは、ワーキングマザー会、ファザー会として、子育ての話をするグループを立ち上げたのだという。

取り仕切ったのは中学生の子供がいる沖縄支店の山﨑美穂さん。同僚から「子供にテレビを見せっぱなしで罪悪感がある」と相談されたことをきっかけに、オンラインでのグループを作ろうと決めた。

最初は役に立った教材などを紹介し合うことから。「子供の写真をアップしてみよう!」と呼びかけたり、テレビ会議を利用してコーヒーブレイクとして『ママ会』を開催したこともあったという。

参加している吉江小穂さんには3歳の子がいる。「すごく気楽な感じで、ママ友が社内にできたようでした。子供のこと、仕事のこと、特に在宅期間中はちょっとでも吐き出せると心の持ちようが変わるので、大切だなと思いました」と話す。

同時に「環境が変わり、以前と同じようには働けない。無理をしすぎないように」というトップから社員に対するメッセージも届いていたという。

「朝会」が有効に

独身者など一人暮らしの人のケアの重要性を特に感じた人もいた。中学生、小学生の子がいる、ワーキングファザー会の一員でもある俵剛さんは、若手が多い営業部門のマネージャーだ。

電話営業で、ホテルや旅館などの新たな取引先を増やす部門。だが、旅行業界は、新型コロナで全体的に厳しい状況に追い込まれている。そんな時期には、必然的に相手の反応も厳しくなっていた。孤独に業務を続ける心理的な負担は重く、元気がなくなっていると感じる社員もいたという。

そこで、「せめてリモートでも会う機会を」と提案。最初の数週間は毎朝30分、慣れてきてからは週に1度の朝会を実施したという。

「何もアジェンダがなくても大丈夫だと思うんです。おはよう。昨日はどうだった?疲れてる?と話し合う時間が大切だと感じました」。

同様にリモート飲み会も数回行ったが、それよりも心理的負担を取り除く効果が実感できたのは朝の30分の時間だったと俵さんは実感しているという。

一方、取材では組織のこんな「失敗例」も聞こえてきた。

ある都内の大手企業。5月末の緊急事態宣言の解除とともに、ある部署では「全員出社、リモートワークは禁止」が言い渡された。理由は、リモートワーク中に若手社員が精神的に不安定になっていたことに気づかなかったためだという。

会社ではグループチャットやビデオ会議システムを利用していたが、その部署は「機械オンチ」を自称するマネージャーが参加していなかったため、部下の異変に気が付かなかったのだという。リモートワークで快適に仕事ができていたと感じていたある男性社員は「それってリモートワークのせいなのか?納得がいかない」と話す。

リモートワークでは、情報量が減る

リモートワークにまつわる問題をどう解消していったらいいのか。こうした事例について、リクルートワークス研究所人事研究センター長、主幹研究員の石原直子さんに聞いた。

石原さんは、リモートワークかどうかに関わらず、職場では、一緒に働く同僚のパーソナルな背景情報をお互いに知ることが、自分が受けいれられている『ホーム感』を得られるかどうかに大いに関わってくると指摘する。特にそれが浮き彫りになったのが、今回の新型コロナだったという。

「うちの子、今日機嫌悪くて大変」

「昨日、お客さんに怒られちゃって辛いんです」

そう気軽に言い合える職場では、ストレスで余計な緊張を強いられず、伸び伸びと仕事に集中できるため、結果的に生産性が向上する。また、人々が不安な環境下では、「リモートでも生産性を下げることは許されない」と監視するのではなく「お互い助け合って行こう」という雰囲気を作り出すことも、結果的に生産性を向上させる大切な要素だという。

オフィスであれば発生するちょっとした挨拶や雑談。その中には、お互いを人として好きになったり、信頼し合えるための情報が混ざっていた。それが、オンラインではハードルが上がる。

リモートワーク環境では、仕事場で得られる情報量は圧倒的に減ります。既に信頼が築かれている職場は、リモートに移行しても大丈夫。しかし、そうではなかった職場や、入社したばかりの若手の場合、オンライン上でその信頼をどう築けるのかが課題になりますね。そこで、職場内の相互理解や受容をつくるための一歩として有効なのが、ママ会やパパ会といった共通の話題があるグループや、飲み会、朝会のような取り組みだと思います」

また、職場のダイバーシティを皆が認識することは、そこで働く人の心理的安全性を高めることにつながるという。

「職場のダイバーシティというのは、決して誰か特別に弱い人がいるという話ではなく、皆が同じ条件で働いているわけではないということ。子育て中の人の家庭におけるTODOの多さだけでなく、例えば若い人の家にはWi-Fiがなかったり、デスクがなかったりすることもわかった。これまでは見ることのなかったお互いのプライベートの様子が少しだけ垣間見え、『この人はこういう環境で働いているんだな』と知ることは、信頼を築く効果があったとも言えるのではないでしょうか」。

「リモートワークで満足しているのは…」

もちろん、リモートワークには、通勤時間の削減や、ワークライフバランスなどの面でメリットもある。育児・介護など、家の仕事を抱えて働く人にとっては、時間の有効活用になる大事な手段というのが大前提だ。

しかし、その上で石原さんがデメリットとして知るべきだというのが、若手の育成機能が失われることだ。

「リモートワークで満足しているのは、経験年数が高いが、マネージャーではない専門職の人だけ」とズバリ指摘する。

「仕事のやり方にある程度精通していて、成果の出し方も分かっている。そうした人が、リモートワークで『通勤しなくていいし邪魔されないし、すごく楽だな』と感じたのは当たり前。一方、どうやったらうまく仕事を進められるのか、試行錯誤中の人にとっては、リモートワークはとてもしんどい環境です」

うまく行っている先輩の電話のかけ方、逆に失敗している先輩の仕事の進め方。オフィスにいる時には無意識にこうした情報が得られ、成長につながっていたのだ。

そして、こうも指摘する。

「『楽になった』と思っている人も、リモートワークで生産性があがった、と思っている人も、実は上司や周囲の人に仕事を振られ『自分の仕事が遮られた』と感じたときにも、想定外の学びがあったはず。それらはリモートワークでは失われがちです」

とはいえ、リモートワークのメリットは捨てがたい。新型コロナの今後によっては再びリモート必須になることも考えられる。こうした状況をどう乗り切って行くべきか?

石原さん自身も「一人の中間管理職として」実践するようになったというのが、チャットツールの活用だ。

プライバシーに関わること以外は、1対1のやり取りではなく、必ず、チーム皆が見られるチャットに、悩み事や相談事も全て書き込むようにと指示。チームのメンバーは誰もがそれに対応して、自分の知っていること、役に立つかもしれない情報を提供するようにと指示したという。

オフラインでは明確ではありませんでしたが、リモートワーク下では、メンバーの一人ひとりが助け合い、組織に貢献する責任を負っているということを改めて定義する必要があるでしょう。拙速な成果主義の導入で『自分の仕事だけ済ませれば終わり』とする考え方が職場に蔓延してしまうと、組織運営にとって危険です。そして、マネージャーがすべきなのは一人ひとりに対する細かいケアではなく、皆が自分の情報を安心して開示する場を演出すること。それが今後のリモートワーク時代に求められているマネジメントのあり方ではないでしょうか」