箕輪氏のセクハラ騒動で問題視された「原稿料未払い」問題、契約書がなくても請求可能か

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Twitterで謝罪した箕輪厚介氏

幻冬舎の書籍編集者・箕輪厚介氏が、エイベックス会長・松浦勝人氏の自伝を出版するにあたり、フリーライターの女性に、「絶対変なことしない」「でもキスしたい」などと不倫関係を迫ったことが文春オンラインに報じられ、問題視された。

この問題はセクハラの文脈で語られることが多いが、もう一つの論点として、原稿料未払い問題がある。文春オンラインによると、この女性は、箕輪氏の依頼で原稿を書き上げたにもかかわらず、見城徹社長に「あんなのはメモだ!」などと酷評され、出版が取りやめになり、原稿料は支払われなかったという。

文春オンラインの取材に対し、幻冬舎は「出版するかどうかの最終的な判断は、見城氏が行うことになっており、そのことについては、松浦氏及びA子氏(フリーライターの女性)双方とも承知しておりました。そもそも原稿料及び経費をお支払する理由がございません」と回答し、「あんなのはメモだ!」発言も否定した。

この記事をめぐって、ネットでは、「日本出版界に未だ存在する契約書なしの搾取構造」「いい加減日本も最初に契約書作るようにしようよ」「ちゃんと契約書を取り交わさない文化なのは改善すべき」などの声があがった。

出版をめぐる契約問題について、どう考えればいいのだろうか。(梶塚美帆)

●セクハラと経済的嫌がらせは、絡み合って起きる

労働相談の窓口になっている日本出版労働組合連合会(出版労連)の書記次長・北健一氏は「残念ながら、時としてこういうことはある」と話す。

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「発注者の優位性を背景にしたセクシャルハラスメントと、それに絡んで突然仕事が切られる、報酬が払われないということは、時としてあります。性的嫌がらせと経済的嫌がらせは、混ぜこぜになって起こるのが特徴です。

そして、企業内で起こるハラスメントよりも、フリーランスへのハラスメントの方が顕在化されにくい。今回可視化されたのは非常にレアケース。フリーランスは仕事を切られる心配があるから、言いづらいのだと思います」

北氏が所属する出版ネッツ(出版労連加盟のフリーランスのユニオン)は、2019年7~8月に実施された「フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケート」に携わった団体の一つ。このアンケートは、2020年6月1日に施行された「パワーハラスメント防止法」で、個人事業主などのフリーランスも適用対象となるきっかけになった大規模な調査だ。

北氏はこんな話も聞いたという。

「ある社員編集者から『仕事を発注する』と言われて、独立を勧められた人がいました。そして実際に独立してフリーランスになった後、社員編集者から『夜に会おう』と誘われました。その誘いを断ったら、仕事がぱったり来なくなったそうです」

さらに北氏は、こうつけ加える。

「フリーランスの場合はなかなか明るみに出ないので、これがよくあることかは分かりません。しかし、例えば10年ほど出版業界で働いている人で、『原稿料未払いもセクハラもありえない、驚いた』という人は少ないでしょう」

残念なことだが、セクハラや経済的なトラブルは往々にしてあるようだ。

●出版取り止めになった書籍の原稿料は、請求可能

先述の、出版取り止めになった書籍の原稿料は、請求することが可能だそう。「明示的な合意がなくても、ある程度の報酬額を請求できます」と話すのは、公正取引委員会での勤務経験がある籔内俊輔弁護士だ。

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出版社側が報酬を提示しておらず、互いに合意がなくても、『相当な報酬』を請求できます。商法第512条の報酬請求権には、『商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる』とあります。つまり、ライターにとって原稿の執筆は営業の範囲内の行為なので、これに該当します。

契約書がなく口頭で頼んでいたとしても、実際にやらせて、できたものを受け取っていれば、報酬は払わなければいけません。紙ベースの依頼書が無い=契約がない、という主張は通用しません

「相当な報酬額」とはどの程度なのだろうか。

「その会社と過去に同じような仕事をしたことがあれば、それが1つの参考材料になります。世間相場を参考にされている裁判例もあります。

このような法律上の規定があることを知らない場合もあり、書面がないことや、出版社側との関係を慮って請求せずにライター側で諦めてしまっている事例では払われないでしょうが、法的根拠を示して請求すれば、出版社側も法的な支払義務があるとわかれば、金額面でなお意見対立が残る可能性はありますが、支払ってくる可能性もあるとは思われます」

未払いになっても、泣き寝入りせずに請求すれば、支払われる可能性はあるようだ。

●契約が曖昧なまま仕事をはじめてしまうことも

幻冬舎に限らず、出版業界では、事前に報酬の提示がなかったり、契約内容が曖昧なまま仕事をはじめたりする会社も多い。これらは、下請法違反の可能性がある。下請法とは、下請事業者の利益保護のための法律で、作業が始まる前に発注書面を交付する義務や、支払期日を定める義務を定めている。

北氏が所属する出版ネッツは、出版業界の下請法に関する冊子を刊行している。その「はじめに」にもこのように書かれている。

契約書を交わす慣行が乏しく、「この仕事の報酬はいくらなのか」といった肝心な点さえあいまいなまま仕事にかかり、後でもめごとになったり、どちらかが泣き寝入りを強いられたりと言った旧弊も、出版産業の一部にはあります。 「契約から支払いまで 知っておきたい出版業界のルール」(出版ネッツ)より

一方で、下請法に則って仕事を発注している出版社も増えつつある。教育教材を扱う出版社に勤務するKさんに話を聞いた。

「見積書、発注書、納品書、請求書、という順番が時系列で揃うように、イントラネットで管理する仕組みがあります。

そして、見積もりの情報をイントラに入力し、発注書を発行して先方に渡します。見積書や発注書の日付を改変することはできません。また、これらの情報を入力しておかないと最終的に支払い処理も行えないため、『見積書をもらって、発注書を発行する』というプロセスを最初に行うことが、発注仕事を進めるうえで不可欠になっています。」

仕事の発注に関する研修はあるのだろうか。

「年に1回ぐらい、下請法に関するテストがあります。資料を渡されるのでそれを読んで理解し、テストを受けます」

Kさんの場合、会社で下請法を守って発注する仕組みができている。それができない会社は、個人の意識で変えていくしかないのだろうか。考えを聞いてみた。

「個人の意識で変えていくのは難しいでしょう。ただ、下請法を守らないのは法律違反ですので、まさにコンプライアンスに反していて、会社としても個人としてもとてもリスキーだと思います。また、きちんと発注することで、受注者が不安なく仕事を進められますし、後で揉める可能性も低くなります」

2016年には下請法の運用基準が改正され、下請事業者への支払の遅れや、不当な減額要請等について、取締りを強化していく方針が明確化された。それを機に、厳しく管理するようになった会社も多いだろう。Kさんの会社もそのひとつだ。

後編では、「フリーライターの出版契約トラブル回避テク…無料の企画リサーチを頼まれたらどうする?」として、具体的なテクニックについて紹介したい。