卵投げ付け「コロナ持ってくるな!」 過剰な警戒で差別

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新型コロナウイルスに関連する差別や人権侵害をなくすため、熊本地方法務局が熊本第二合同庁舎に掲示したポスター=熊本市中央区

 新型コロナウイルスに関連した差別や人権侵害の相談が、熊本県内でも相次いでいる。感染に対する強い警戒心が要因になるケースも多く、対応に当たる行政機関は「きちんとした根拠や事実に基づいた言動を心掛けてほしい」と呼び掛けている。

 「県外からコロナば持ってくるな!」。怒声とともに投げ付けられた生卵が、車の後部ガラスにぶつかって割れた。佐賀県鳥栖市の会社員男性(52)は今も、その光景を思い出すという。

 男性は御船町出身。5月中旬、親族の葬式に参列した帰りに山鹿市のコンビニに立ち寄り、止めていた佐賀ナンバーの車に戻ろうとした時だった。相手は自転車に乗った高齢の男性。車内にいた妻と男性は恐怖とショックでぼうぜんとした。「警察に通報しようとしたが、恐怖でできなかった。これ以上被害に遭いたくないと思い、急いで立ち去った」

 故郷の熊本でいきなり、一方的に向けられた敵意。男性は「どういう事情で県外から来たのか確かめないまま攻撃され、悔しかった」と振り返る。

 一方、熊本市の20代女性は5月に訪れた同市の整骨院で、東京在住と勘違いされて施術を断られた。女性は就職活動中。一緒に来院した祖母が「孫は東京で面接があるから…」と話すと、それを聞いた従業員ら数人が奥で話し込み、女性にこう伝えた。「東京の方は施術できません」

 熊本在住だと説明すると「すみません、このご時世なので」と謝罪を受けたが、悔しさと悲しさを抑えきれず、施術を受けないまま整骨院を後にした。今は冷静に受け止め、「コロナへの恐怖や猜疑心[さいぎしん]が強まり、過剰反応になったのだろう」と考えている。

 県内の公的機関の窓口が22日までに受け付けた差別などについての相談は県人権同和政策課に32件、熊本市は市人権政策課と市保健所、市教委に計10件。このほか、熊本地方法務局などにも寄せられている。

 卵をぶつけられた男性は「今こそ助け合いが重要。かっとなっても一度立ち止まり、相手の事情や気持ちを考えてほしい」。施術を拒まれた女性は「過剰に反応してしまう人も含め、言われた側の心境を推し量ることができる世の中になってほしい」と願っている。(堀江利雅、田中慎太朗)

 ◆当事者の声に耳傾けて

 杉本学・熊本学園大准教授(社会学)の話 新型コロナ関連の差別を巡っては、目に見えないウイルスへの不安や恐怖心が、目に見える感染者らに対する過剰な警戒につながっている。「自粛警察」のような動きは「自分は自粛しているのにリスクを高める行動をする人は許さない」といった心情が背景にありそうだ。特に日本は、同調圧力や相互監視が強いと感じる。医療従事者や経済を回している人々の活動まで抑圧されれば、結果的に社会全体のリスクが高まる。そうなった場合を想像する力や寛容さが求められるが、実際は容易ではない。まずは正確な情報を集め、当事者の声に耳を傾けることが一つのきっかけになるのではないか。