「誹謗中傷」と「批判」の境目、訴えられないラインは? 芸能人に「きっと病気」はNGか

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 亡くなった木村花さんや、不倫が報じられた芸能人への攻撃などで、インターネット上の誹謗中傷に大きな注目が集まる。自身の過去の発信が誹謗中傷に当たらないか、弁護士への問い合わせも増えているという。匿名の誹謗中傷問題に取り組む「YouTuber弁護士」藤吉修祟さんは、問題に注目が集まるのはいいこと、としつつ「著名人が開示請求をちらつかせ、萎縮して真っ当な批判すらできなくなることを危惧している」と訴える。「誹謗中傷」と「真っ当な批判」の境目はどこにあるのか。解説してもらった。

■指先一つ、気力削がれる炎上

 インターネットの炎上は本当に瞬く間に拡がります。ネットが他の媒体と違うのは、マウス一つで全文をコピペできてしまうことにあります。それに加えSNSでは、シェアボタンやリツイートボタン、指先一つで同じ記事がもう一つ出来上がってしまうのです。100人がボタンを押せば100個の記事ができてしまう。その拡散の速さについていける人はまずいません。

 「嫌ならネットを見なければ良い」という乱暴な意見があることは承知していますが、どこまで広がるのかと気になって、ついつい何度も見てしまうのは体験しないとなかなか理解できないかもしれません。

 その結果、ストレスは大変なものになり、次第に気力などが削がれていきます。実は私もかつて炎上と言うほどでもないのですが、ある芸能関係の事件を扱ったときに「2ちゃんねる」という匿名掲示板で叩かれたことがあります。そこまで大きく叩かれたわけではないのですが、匿名の人達による名指しの批判というものは結構なストレスを感じました。

 

■自作自演、繰り返す人たち

 ただ、実情はというと「2割の人間が8割の炎上を作る」と言われております。これまで誹謗中傷の投稿の発信者の開示請求を数多く手掛けてきた経験上、数人が自作自演を繰り返していたということはたくさん見てきており、その点についてある程度は真理だなとは思うわけです。

 しかし、書かれた方としては世界中の人に非難されているような感覚になります。本当に指先一つで人を死に追いやる可能性があるという事実をよく考える必要があります。

 

■人はなぜネット上で誹謗中傷をするのか

 人がネット上で誹謗中傷を繰り返すのは、2つの理由が考えられます。一つは賛同してもらう快感で、もう一つは価値観の違いを知らせる正義感で。この2つを説明したいと思います。

 

①   同意の快感型

 これまで扱ってきたケースを参考にすると、ネットで誹謗中傷を行う人は、私生活ではあまり評価されることがない人であるという印象です。ネットで共通の敵を作ってその人を叩くことで周囲から「いいね」と言われたり、賛同コメントを頂いたりすることで、それが私生活ではないこともあり一種の快楽を感じてしまい、より誹謗中傷がエスカレートしていくイメージです。匿名掲示板などでその傾向が多く見られます。

 

②   自分が正義の「自粛警察」型

 もう一つは、やはり自分が正しいと信じ、その価値観を相手に伝えたいと、その伝え方が過激になるパターンです。この構造はある意味で自粛警察と似ていると感じています。自分が正義と信じていて、やっていることの重大さに気が付かないケースが多いのです。

 こちらのケースは主にSNSでの発言に多く見られる傾向があります。

 

■分かりやすい名誉毀損

 では、どのようなことが法的な責任を伴う可能性のある「誹謗中傷」に当たるでしょうか。分かりやすい例は、事実無根の書き込みです。事実と反することを広め、その人の評判を落とすことが基本となります。厳密に言うと、事実無根ではなく真実であったとしても、公益目的があるかなどにより誹謗中傷となることもありますが、ここでは割愛します。

 「藤吉弁護士が動物を虐待している」などの書込みは、そんな事実はないので、名誉毀損となり誹謗中傷に該当することになります(私は動物が大好きです)。

 最近も、アンジャッシュ渡部建さんの不倫報道で巻き込まれた人が事実無根を訴えているケースがありました。これが事実無根であった場合は、まさに当人が不倫をしていると周囲に誤解をさせたうえで、当人の評判を落としているのですから名誉毀損に該当することになるのです。

 

■真実かどうか、関係なく誹謗中傷になるケースも

 具体的な「事実」の書き込みも、誹謗中傷に当たるケースがあります。私自身に対して誹謗中傷をすることを想定して、わかりやすく説明します。

 例えば「藤吉はカツラを使用している」というような、プライバシーを暴く具体的な事実を書き込むことが、これに該当します。プライバシーとは、書かれた事実が私生活上の事実らしく受け止められ、まだ公開されておらず、他人には知られたくない情報を指します。

 先程の名誉毀損とは異なり、その情報が真実であるかどうかは問われません。真実のように周囲に見えれば、プライバシーの侵害に該当します。ただ、プライバシーの場合、その情報が真実のほうが書かれた人のダメージは大きいということになります。

 なぜなら、仮に真実でなければ「間違っているよ」と反論ができますが、真実であればプライバシーという性質上、反論が不可能だからです。

 

■芸能人の不倫報道が許されているワケ

 ただ、プライバシーを暴くことは全てが違法というわけではなく、基本的にはそれを暴くことによって役立つ度合いと、書かれた人の受けるダメージを比較して判断されることになります。芸能人の不倫などは、疑問は残ると思われますが、有益な情報と判断されたりすることもあるので、許されているのです。

 

■「あいつは仕事が本当に遅い」はNGか

 例えば「藤吉弁護士は仕事が遅い」といった書き込みは、人の感想であり、人によって答えが分かれるものになりいわゆる意見論評となり事実書込み型と区別されます。そのなかでも人格攻撃型と商品批評型にわかれます。前者は私そのものの性格や容姿に対する批判で、後者は「藤吉弁護士の書面を作る速度は本当に遅い」など、私の仕事ぶりなどに対する批判となります。

 どちらも、受忍限度を超える度を超えた批判が誹謗中傷になりますが、その判断は裁判官によっても分かれ、明確な境界線の設定は不可能です。ただし、人格攻撃型のほうが商品批評型よりも誹謗中傷になる範囲は広いということになります。

 

■不倫した芸能人に対して、違法になる書き込みの境界線

 人格攻撃型について、アンジャッシュ渡部さんのケースで言えば、渡部さんに対して「自殺して」「消えろ」といった書き込みがありました。ここまで書くと度を超える批判として違法となる可能性があります人格。

 一方「不倫はおかしい」とか「顔を見たくない」、「きっと病気」くらいまでは仕事に対する評価という側面もあるので、こちらは商品批判型に該当し、比較的緩やかに違法性が判断される傾向にあります。

 

■ネガティブ意見が有益なケース

 誹謗中傷は許されませんが、ネガティブな意見が一切許されないとなると、情報の収集には不便になります。

 たとえば、口コミサイト。どの店に入るか選択する上で、いい情報しかないと役に立たないわけです。ネガティブな情報も入り混じっているからこそどのお店に行くか選択する上で有用になるわけです。

 ただし、そこに事実無根の情報が入っていたり、度を超えた批判が入っていたりすると、書かれた方としてはたまったものではないでしょう。下手すれば営業妨害にもなりますし、違法と評価されてもやむを得ないでしょう。

 

■あなたの名前は出せますか?

 結局のところ、書き込み対象者の権利と、表現の自由のバランスを適切に保っていかなくてはなりません。どちらに偏っても不都合が生じます。

 ただ、人を批判する際は、あなたの名前を出してでも言えるのかを考えてから送信ボタンを押すということを心がけるといいかもしれません。(藤吉修崇=弁護士法人ATB代表弁護士)

 

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藤吉修崇

誹謗中傷の削除と投稿者の特定を業務の中心とする。

YouTuberとしても活動し、誹謗中傷やちょっと役立つ法律知識を解説。YouTubeチャンネル「二番煎じと言われても」は、現在約3万人が登録。

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