米アップルも注目の新技術「ミニLED」、未来のディスプレイはどう変わる?

今年5月21日、台湾の大手PC周辺機器メーカーであるマイクロスター(略称MSI、台湾:2377)は、世界初のミニLED搭載のノートPC「MSI Creator 17」を発売しました。

同製品の特筆すべきところは、「ミニLED」と呼ばれる新技術を液晶ディスプレイの光源として採用しており、従来の液晶ディスプレイに比べて、「明るさ」や「色の鮮やかさ」、「コントラスト」などの点で大きく進化しています。

今のところ、ミニLEDの技術は主に画像処理、デザイン用の高機能ディスプレイに使われていますが、その優れた特性から来年以降テレビやスマートフォン、タブレット型PCなどさまざまなデジタル製品向けに採用が広がる見通しです。今回は期待の新技術であるミニLEDの概要と関連するアジアのサプライヤーについてご紹介したいと思います。


「ミニLED」はどんな技術?

ミニLEDは文字通り、小型化したLED(発光ダイオード)を利用した光源技術です。LEDはさまざまな化合物でできた半導体に電流を流すことで発光する特性があり、LEDチップと呼ばれる半導体の部分は照明器具や液晶ディスプレイの光源として製品内部に組み込まれています。

一般的なLEDチップのサイズは700~1,500マイクロメートルと、おおよそ定規の1ミリ目盛り分の大きさですが、ミニLEDはチップのサイズを従来の約5分の1(200マイクロメートル以下)にまで小型化したものです。

液晶ディスプレイは通常、LEDチップを光源として、その上に画像を表示するための液晶、色を表示するためのカラーフィルターを配置する構造となっています(下図参照)。

光源が常に光っているため、「引き締まった黒」などはっきりしたコントラストの表現は苦手です。一部の高機能テレビに表示エリアごとの明暗制御(ローカルディミング)機能が搭載されていますが、それでも明暗の表現に限界があります。

一方、ミニLEDはチップサイズが従来の約5分の1しかなく、より細かなエリアごとに明暗制御することができ、従来のLEDに比べて表示画質を大幅に向上させることができます。

次世代ディスプレイ技術としてアップルが注目

現在、最先端のディスプレイ技術として「有機EL」が高付加価値なテレビ、スマートフォンなどに採用されていますが、ミニLEDの登場によって有機ELの優位性が低下しそうです。

例えば、有機ELは確かにコントラスト比に優れていますが、同時にミニLEDに比べて劣化しやすい、最大輝度が低いといった弱点があります。また、製造コストに関しては、現段階においてミニLEDのほうが高いものの、今後、本格量産が始まれば有機ELよりも低コストになる見通しです。

このような優れた特性から、米アップルは次世代ディスプレイ技術としてミニLEDに注目。LEDチップ大手のエピスター(台湾:2448)と液晶パネル大手のAUオプトロニクス(台湾:2409)と共同で、100億台湾ドル(約362億円)をミニLEDの工場建設に投じる予定です。

この新工場は台湾の桃園市に建設され、来年にもiPadやiMac、MacBookなどのアップル製品にミニLEDを供給する可能性があります。

ミニLEDの普及で恩恵を受けるアジアのサプライヤーは?

今後ミニLEDの普及が進んだ場合、恩恵を受けるアジアのサプライヤーとしては、LEDチップメーカーのエピスター(台湾:2448)、三安光電(上海A:600703)、液晶ディスプレイメーカーのAUオプトロニクス(台湾:2409)、TCLテクノロジー・グループ(深センA:000100)などが挙げられます。

この中でLEDチップ世界最大手のエピスターは、近年LEDチップの価格下落を背景に業績が低迷しているものの、ミニLEDの普及を追い風に業績の回復が期待されています。台湾経済日報の報道によると、エピスターの売上高に占めるミニLEDの売上比率は今年5%、来年15%に達し、これに伴って同社の業績も再び成長軌道に戻って2021年から黒字転換する見通しです(2019年は37.5億台湾ドルの赤字)。

また、ミニLED分野での競争力を強化するために、エピスターは6月18日に同業のレクスター・エレクトロニクス(台湾:3698)と合併すると発表しました。同社の株式は10月頃に上場廃止になり、新設される共同持ち株会社の株式に置き換わる予定です。

LEDチップ世界2位の三安光電は、昨年120億元(約1,800億円)を投じて湖北に新工場を建設し、ミニLEDチップの生産能力増強に乗り出しました。同社はすでにサムスン電子の高機能テレビ向けにミニLEDのチップを供給していますが、今後他のメーカーのテレビやスマートフォン向けにもチップの販売が拡大する可能性があります。

そして、ディスプレイメーカーのAUオプトロニクスとTCLテクノロジー・グループは、それぞれアップル製品とテレビ向けのミニLEDディスプレイの開発に力を入れています。今のところ、両社の売上高の大半は液晶パネルであるため、その価格下落によって業績も低迷しているものの、来年以降ミニLED製品の市場投入に伴って業績の改善が期待されます。

このようにサプライヤー各社がミニLEDの生産拡大と普及に注力する中、ミニLEDをさらに小型化した「マイクロLED」という新技術の開発も進められています。近い将来有機ELを超える次世代ディスプレイ技術の実用化がますます加速しそうです。

<文:市場情報部 アジア情報課 王曦>

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