西武スパンジー激変の舞台裏 辻監督が打率0割台でも1番起用を貫いたワケ

1号満塁本塁打を放った西武スパンジェンバーグ(左)と辻監督(中央)【写真:荒川祐史】

打線組み替え望む声も上がったが、一貫していた指揮官の評価

■西武 11-3 ソフトバンク(23日・メットライフ)

まさに別人のようだった。西武の新外国人コーリー・スパンジェンバーグ外野手は23日、メットライフドームで行われたソフトバンク戦で、来日1号の先制満塁本塁打を含め5打数4安打の大活躍。それまでの開幕3連戦で14打数1安打8三振、打率.071と、からきしだった助っ人と同一人物とは信じられないほどだ。

試合後、「実は、開幕3連戦ではちょっと首を痛めていた。それが(試合のなかった)昨日休んで良くなった」と明かしたのは辻発彦監督だった。「首に張りがあったみたいだけど、スパンジー本人はあまり口に出さない。彼はジェントルマンだから、弱みを見せない。自打球を当てても、トレーナーに『来るな!』というほどだから。その彼が『首が少し……』と言っていた。だから、あんなに三振しちゃったのかな?」と最後はおどけた。

1勝2敗と負け越した開幕3連戦をうけ、チーム関係者の間では打線の組み替えを望む声もあった。この日の相手の先発投手は、やはり新外国人でメジャー通算54勝の実績を誇る左腕マット・ムーア。左打者のスパンジーはそれまで、左投手には6打数ノーヒット5三振ととりわけ酷かったのだから無理もなかった。

しかし、辻監督はスパンジーを切り込み隊長の1番とする打線に一切手を加えなかった。「今は打ちたいという気持ちが強く出過ぎているが、ボール球にさえ手を出さなければ、いいものを持っている」と評価を下げなかった。そして、スパンジーはムーアから1回に左前打、2回に満塁弾、4回には右前打。7回には俊足を生かし、3番手の右腕・尾形から遊撃内野安打を奪ったのだった。

「足が速いし選球眼もいい。ツボにはまると、意外に長打もある」

もともとスパンジーは来日以来、調子の波が激しく、周囲の評価も昇降を繰り返してきたが、指揮官の見方は一貫している。3月のオープン戦・練習試合では、10試合で30打数4安打、打率.133、本塁打0と振るわなかったが、辻監督は「まだ日本の投手に慣れていないところがあるが、足が速いし選球眼もいい。ツボにはまると、意外に長打もある」と買っていた。内外野どこでも守れて、走れるスパンジーは、“辻野球”向きの人材といえる。

新型コロナウイルス禍による活動自粛期間を経て、今月2日以降の練習試合では、突然変異的な3試合4本塁打の固め打ちを皮切りに、10試合通算34打数17安打で12球団トップの打率.500をマーク。打順は下位から1番に昇格した。

スパンジー自身は不振の開幕3連戦を終えても、「長いシーズンにはヒットの出ない試合もある。それほど深刻には考えなかった」と言う。今後も調子に関わらず、心が折れることはなさそうだ。「ホームランが出たからといって、それに引っ張られず、気持ちを切り替えて次の試合に臨みたい。一喜一憂せず、同じアプローチを続けたい」と落ち着きはらっている。そして、辻監督の評価も大きく変わることはないだろう。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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