上昇相場でやりがちな失敗、安易に「売って儲ける」を考えてはいけない

米国株式市場でナスダック指数が史上最高値を更新しました。世界的な「金余り」と経済対策による、個人投資家の金余りが株価を大きく押し上げているということです。日本の株式市場も足もとの厳しい状況に関わらず、大きく上昇しているものが見られます。


空売りが相場を押し上げる

今回の株式市場の原動力は個人投資家と考えられています。特に3月の暴落時から参加したという人はほとんどの株が大きく上昇しているのですから、しっかりと利益が出ている人が多いのだと思います。ただ、前回述べたように上昇時でも株式投資で失敗をするということもあるのです。

今回の相場のように急落した後に底堅さが見られてから、じりじりと上昇する相場があります。こうした相場の時は往々にして、株価が下がると思っている人が多いことが上昇の要因となることがあるのです。

株式投資は本来は株式を保有して値上がり益や配当などの果実を得るものなのですが、投機的な世界では先に株を売って、安くなったところで買い戻すという手法があります。信用取引を使って行うのですが、株券を借りて先に売るということなのです。例えば、現在1,000円している株が1か月後に500円まで値下がりしたとします。この際に1,000円で先に株を売却し、あとから500円で買えば、差額である500円が手に入るということなのです。

こうした取引をしている人が増えると相場が下がるのではないかと思いがちですが、そうではなく、逆に少し下がってもすぐに買戻しが入るので下がらなくなるのです。さらに思うように下がらないと、損失を覚悟で買戻しが入り株価を押し上げることになるのです。先に売った株が逆に上昇した場合には大きく損失が広がるということもあるのです。

先述の例でみると1,000円で売却したあとに株価が3,000円まで上昇となると、なんと2,000円も損をしてしまうことになるのです。しかもこの取引には株券を借りているのですから、毎日「借り賃」が発生し、しかも返済する期日が決まっているので「下がるまで待とう」と悠長に構えているわけにいかないのです。

笑って済まされない失敗

本来の株式投資では先に売るということはないのですから、保有している株が株価が下落すると思えば売却をすればいいだけの話ですし、保有していない株がどれだけ下がっても持っていないのですから損失になることもなく「関係ない」ことなのです。

それが、上がったときに利益が出たものを下がるときにも利益を出そうと考えること自体が失敗の元なのです。

江戸時代の米相場の世界から同じようなことがあったようで、米相場の神髄を著した本の中に「笑って済まされる後悔、笑って済まされない後悔」ということが言われています。この「後悔」=「失敗」と考えればわかりやすいのですが、失敗と言っても失敗ではないような失敗と取り返しのつかなくなるような失敗というものがあります。

筆者が若いころのとっておきの失敗談をお話します。100円で買った株がたった2週間で200円になったことがあります。喜々として売却したところ、その後半年くらいかけて2,000円まで上昇したのです。売却を焦らなければ一気に資金が20倍になったところでした。

この失敗は資金が2倍になっているのですから「失敗」とは言えませんが、ここで200円まで上昇したのだから50円くらい下がるだろうということで信用取引で売っていたらどうなったでしょう。50円を儲けようと思って1,800円の損失となっていたことになります。そうなれば、失敗談として回想できる話では済んでいなかったはずです。

「下がる相場でも利益を出そう」などと言って欲をかくとろくなことがないのです。「二兎追うものは一兎も得ず」と若干意味は違うのですが「上げ下げどちらでも利益を出そう」と思わないことが「笑って済まされない失敗」を避けることになるのです。先に売りから行うなどということは初心者では行うことがないのですが、少しうまく行き始めて、インターネットなどで「売って儲けた」などという話を聞いたり、「下げ相場で儲けるには……」などいうことが取りざたされると、スケベ心を出してしまうことがあります。

いつでも笑って済ませられるような失敗をしながら投資の腕を磨くようにしたいものです。

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