X線宇宙望遠鏡「Spektr-RG」によって取得されたX線全天マップが公開

X線宇宙望遠鏡「Spektr-RG」の観測装置「eROSITA」によって取得されたX線全天マップ(Credit: Jeremy Sanders, Hermann Brunner and the eSASS team (MPE); Eugene Churazov, Marat Gilfanov (on behalf of IKI))

昨年2019年7月に打ち上げられた「Spektr-RG」は、ロシアとドイツのX線観測装置を搭載した宇宙望遠鏡です。6月19日、Spektr-RGに搭載されているドイツ製の観測装置「eROSITA(extended ROentgen Survey with an Imaging Telescope Array)」によって取得されたX線全天マップが公開されました。

■全天からおよそ100万個のX線天体を半年間で検出

公開されたX線全天マップの注釈付きバージョン(Credit: Jeremy Sanders, Hermann Brunner, Andrea Merloni and the eSASS team (MPE); Eugene Churazov, Marat Gilfanov (on behalf of IKI))

こちらが公開されたX線全天マップ(冒頭の画像に注釈を加えたもの)です。色はX線のエネルギーに応じて擬似的に着色(赤は0.3~0.6keV、緑は0.6~1.0keV、青は1.0~2.3keV)されています。中央やや上には太陽系外で初めて検出されたX線天体「さそり座X-1(Sco X-1)」が、その周りには大きく弧状に広がる「北極スパー(North Polar Spur、ノースポーラースパー)」と呼ばれる構造が写っています。中央右下には「大マゼラン雲(Large Magellanic Cloud)」、画像の右端には有名なかに星雲の中心にある「かにパルサー(Crab Pulsar)」も見えています。

低エネルギーのX線はガスや塵によってさえぎられやすいため、天の川銀河の中心方面(画像中央付近)は高エネルギーのX線を示す青や緑が目立っています。また、全体を赤く覆っているのは、太陽系を取り巻くローカルバブル(局所バブル)と呼ばれる泡状の構造に由来するX線です。

地球と太陽の重力が釣り合うラグランジュ点のひとつ「L2」(地球から見ると太陽の反対側に位置する)で運用されているSpektr-RGは、半年(182日間)を費やしてeROSITAによる全天の観測を実施しました。Mara Salvato氏(MPE:マックス・プランク地球外物理学研究所)は「eROSITAの全天マップをみな心待ちにしていました」と語ります。

注釈が入れられている特徴的な天体や天の川銀河の構造だけでなく、なかにはビックバンから十数億年程度しか経っていなかった頃の活動銀河核から放出されたX線も点状に捉えられているといいます。発表によると、今回の全天観測で検出されたX線天体の数はおよそ100万個に達しており、60年以上に渡るX線天文学の歴史を通して検出された既知のX線天体の数が2倍に増えたとされています。

4年の運用期間が予定されているSpektr-RGは、すでに2回目の全天観測を実施しているといいます。Kirpal Nandra氏(MPE)は「eROSITAはわずか6か月間でX線天文学に変革をもたらしましたが、これはまだ幕開けにすぎません」とコメントしています。

Image Credit: Jeremy Sanders, Hermann Brunner and the eSASS team (MPE); Eugene Churazov, Marat Gilfanov (on behalf of IKI)
Source: MPE
文/松村武宏

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