『スキップとローファー(1)〜(3)』高松美咲著 どうかみんなにハッピーエンドを

 パッと見陰気、蓋を開けたら純粋無垢な女の子が学校のアイドル級イケメン男子と仲良くなってあれ?これってもしや、恋……?なーんて流れの少女マンガは、2006年に発表された椎名軽穂の名作「君に届け」以降、こすられまくった設定なわけで。だからこれも、使い古しのボーイミーツガール再びか、なんて思ってしまったわけで。

 しかし、だ。ゴリゴリの青年誌「月刊アフタヌーン」に連載されていること。また「このマンガがすごい!2020」のオトコ編第7位にランクインされたこと(権威に弱め)。一体何が違うんだろう。見飽きた設定の中にある唯一無二を探しに、手にとってみることにした。

 主人公は岩倉美津未、15歳。石川県の海辺の中学校(全校生徒26人)を卒業し、東京の高偏差値高校(一学年240人)に首席で入学した。故郷のような過疎地を元気にする、官僚になるための第一歩として。

 が、初日から駅で迷子になり、のちにクラスメイトとなる志摩聡介に助けてもらう。任命されていた新入生代表の挨拶にはなんとか間に合ったが、その直後に担任教師(の新しいスーツ45000円、お気に入りのブラウス10000円)に向かって盛大に嘔吐。完璧な高校生活のスタートを思い描いていたはずなのに、クラスメイトから「吐いた人」と認識されてしまう。そう、幸か不幸か、彼女は勉強こそできるが、勉強以外が見事にポンコツなのだ。しかしその天真爛漫、まっすぐまっさらな人柄は、器用に振る舞い、自分が傷付かないようにプロテクトしがちなシティボーイズ&ガールズの心を少しずつ変えてゆく。

 ふふふと笑えるコミカルなシーンも印象的だが、なんといっても登場人物が持つそれぞれの事情や心の機微を、あたたかく描いているのが魅力的だ。例えばライバルポジションのクラスメイト。陰気な地味子とハイスペ王子のラブストーリーは、往々にして「主人公を勝手にライバル視してくるリア充女子」の登場が定石だが、イケメンに想いを寄せる江頭ミカは、見た目こそそつなく可愛く今っぽいが、その実根強いコンプレックスを抱いている。だからハイスペ王子と打ち解けはしゃぐ美津未を、「ラッキーだったね、岩倉さんは。そのまんまで受け入れてもらえて」と、嫉妬の混じった冷ややかな目で見つけるのだ。「私みたいに食べたいもの我慢して、キラキラした部活に入ってキラキラしたグループに入って、そんな努力しなくてよかったんだもんね」と。その一方で、美津未の魅力をまっすぐに理解しているのも彼女。「私がムカつく奴の名前をふたつ覚えている間に、岩倉さんは親切にしてくれた人の名前をひとつ覚えるんだろう」……。好きとも嫌いとも、友達ともライバルとも違う、名前のない関係がここにはたくさんあって、それらが物語を豊かにしている。

 その一方で、ハイスペ王子の志摩に関しては、その心情がまったく言語化されていない。プロテクト王子なわけです。しかしそこに踏み込むのが美津未。いえ、踏み込むというか、志摩が美津未を踏み込ませているというか、なんというか。あっ何言ってるかわかんないですよね、わかりますよ、だって私もこれから何が起きるのかまったくもってわからないから!!あはは楽しい〜。

 みんなみんな一生懸命で、みんなみんないとおしい。どうかみんなに、余すところなくハッピーエンドを。そう願わずにはいられない。安心してください、物語は続きますよ。私だってうれしい!

(講談社 各630円+税)=アリー・マントワネット

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