イージス・アショア配備計画が断念にいたるまで

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イージス・アショアの配備撤回に関する記者の質問に答える河野防衛相=6月25日午前、防衛省

 政府は24日の国家安全保障会議(NSC)で、秋田県と山口県で進めてきた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」配備計画計画を断念した。迎撃ミサイルを発射した後、ブースター部分を自衛隊演習場内などに確実に落とせない技術的問題が分かり、周辺民家などの安全確保にハードウエア改修が必要になったことが理由だ。河野太郎防衛相は「コストと配備時期に鑑みてプロセスを停止する」と述べた。2017年の導入決定時からさまざまに反対や批判が巻き起こっていたイージス・アショア配備計画のたどった軌跡を振り返る。(構成、共同通信=榎並秀嗣)

 ▽トランプ政権に配慮

 イージス・アショアは、海上自衛隊のイージス艦に搭載されている迎撃ミサイル(SM3)や高性能レーダーを地上に配備する弾道ミサイル迎撃システムのことだ。日本に着弾する可能性がある弾道ミサイルを大気圏外で迎撃する。大気圏内に入ってから迎え撃つ地対空誘導弾パトリオット(PAC3)に比べ、防護範囲は広い。また、イージス艦が迎撃態勢を取るには海上に展開する必要があるがイージス・アショアは常時警戒が容易で自衛隊員の負担も軽減されるという。

 17年3月30日 自民党安全保障調査会が核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮への対応策として、イージス・アショアや最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の導入の検討を加速するよう政府に提言した。

 稲田朋美防衛相(当時)が5月15日の参院決算委員会でイージス・アショアの導入検討を本格化させる考えを示した。THAADは迎撃能力が高いものの導入費が高額なことや防護可能な範囲がイージス・アショアに比べて狭いことが問題視された。

 米ワシントンで8月17日午前(日本時間同日夜)に開かれた外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、日本政府がイージス・アショアの導入方針を米側に伝えた。トランプ政権発足後初めてとなる2プラス2の場だった。

 トランプ大統領は16年の大統領選で米国製品購入を呼び掛ける「バイ・アメリカン」を公約に掲げていた。日本政府の関係者は「日米防衛協力のアピール材料として、うってつけだった」と米側への配慮があったことを認めている。

 12月19日、政府はイージス・アショアを2基導入する方針を閣議決定した。計画では23年度の運用開始を目指していた。配備先として、陸上自衛隊新屋演習場(秋田市)、陸自むつみ演習場(山口県萩市、阿武町)を候補地として検討していることも明らかになった。

米ハワイ州カウアイ島にある地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の米軍実験施設=2019年1月(共同)

 ▽計画の総額分からず

 これに対し、野党は導入を決めた閣議決定の正当性や費用と効果について疑問を呈した。民進党の足立信也政調会長(当時)は「国会での議論もないまま閣議決定で導入を決めたことや、補正予算に計上して既定路線化する手法についても到底納得できない」とのコメントを出した。

 費用が膨れあがる恐れがあることも指摘された。政府の説明も二転三転。配備などに関わる総額を明示できない状態が続いた。小野寺五典防衛相(当時)は17年11月の国会答弁で1基当たりの見積額を800億円とした。しかし、防衛省は直後の12月に自民党へ行った説明で1基当たりの額を1千億円弱と上方修正した。

 18年7月に小野寺防衛相(当時)はレーダーを含む1基当たりの取得経費を約1340億円と発表した。2基導入で約2679億円となるが、土地造成費や建物建設費などを含めると最終的には4千億円以上になる見通し。防衛省は取得費とは別に、教育訓練や30年間の維持・運用に必要な経費が約1985億円に上るとの試算も示した。

 河野防衛相は今月22日の参院決算委員会で、地上イージス本体2基の取得費や訓練費、維持管理費などを合わせて約4500億円を見積もっていたと述べた。同時に、既に契約した額は1787億円で米側に196億円を支払ったことも明らかにした。未払い分について、河野防衛相は「日米間で協議していきたい」と話した。

 立憲民主党の福山哲郎幹事長は23日の記者会見で「この数年、米国からの兵器の『爆買い』も含め、安全保障に何が必要で、どのような目的で装備を調えるのかが非常に不安定化している。検証が必要だ」と指摘した。

 ▽相次ぐ不手際

 17年12月の閣議決定で配備の候補地となった秋田、山口両県では、地元住民から「敵の標的になる」との懸念やレーダーの電磁波による健康被害への不安視する声が上がり、激しい反対運動が起きた。

「イージス・アショア」配備候補地の山口県阿武町、萩市「陸自むつみ演習場」、秋田市「陸自新屋演習場」

 19年5月下旬、防衛省は秋田、山口両県知事に新屋演習場とむつみ演習場が適地とする調査結果をそれぞれ報告した。

 むつみ演習場がある阿武町の花田憲彦町長は「町の有権者の半数以上が反対だ」と明言。萩市の藤道健二市長は「住民の不安が解消され、理解が十分進んだと言える状況にない」と話した。 一方、新屋演習場を抱える秋田市の穂積志市長は市が配備受け入れの可否を判断する時期について問われ「2年、3年ぐらいかかる」との見通しを示した。

 報告の直後に、新屋演習場を適地とした防衛省の調査がずさんなものだったことが明らかになる。

 6月5日、防衛省が調査結果について計9カ所の数値に誤りがあったと明らかにした。

 調査結果では、同演習場の代わりに配備できる場所として東北地方にある18カ所の国有林などと陸自弘前演習場(青森県)の計19カ所を検討した。その結果、レーダーを遮蔽(しゃへい)する山があるなどとして「不適だ」としていた。

 ところが、19カ所のうち9カ所で山などを見上げた角度である仰角が実際より過大に記載されていた。防衛省の深沢雅貴官房審議官(当時)は「正確なデータに基づき説明することが何よりも大切だが、このようなことになり大変申し訳ない」と陳謝した。

 不手際はさらに続いた。防衛省が6月8日に秋田市で開いた説明会で防衛省の職員が居眠りをしていたのだ。

イージス・アショア配備を巡る住民説明会で、職員の居眠りなどについて謝罪する伊藤茂樹東北防衛局長(当時)=19年6月10日午後、秋田市

 これを受け、秋田県の佐竹敬久知事は6月10日の県議会で、防衛省との協議を白紙に戻す考えを表明した。6月17日には岩屋毅防衛相(当時)が秋田市を訪れ、秋田県の佐竹知事や秋田市の穂積市長と相次ぎ会談。不手際が相次いだことを謝罪した。

 今回の計画停止を受け、穂積市長は「防衛省の姿勢は全く無責任。閣議決定からの2年半、地元は振り回されてきた」などとコメントした。

 ▽検証

 イージス・アショアの計画断念を受け、政府は新たな抑止力の検討を始めた。安倍晋三首相は敵基地攻撃能力保有の是非を含む議論を始めると表明。専守防衛の原則を有名無実化しようとする発言には当然、反発も多い。今、何より必要なのはイージス・アショアを巡る経過を丁寧に検証することだろう。