【MLB】なぜ球団名に“ソックス”がつくのか? 野球と靴下にまつわる伝統と歴史

靴下のロゴでお馴染みのレッドソックス【写真:Getty Images】

かつて他球団との差別化を図るために「赤い靴下」を履いたことが発端

競技をするときに「靴下」を着用するスポーツは、野球だけでなくたくさんあるが、野球はとりわけ靴下とかかわりが深いスポーツだ。MLBのチームにも「ボストン・レッドソックス」「シカゴ・ホワイトソックス」とチーム名に「靴下」が入るチームがある。MLB最大の事件とされる八百長事件は「ブラックソックス・スキャンダル」と言われている。

野球はアメリカの東海岸で始まった。そのごく初期の段階で野球と靴下の「縁」が生まれている。1842年、アレクサンダー・カートライトというニューヨーク・マンハッタンの消防団長が野球チームを作った。その名前を「ニューヨーク・ニッカーボッカーズ」と言った。

「ニッカーボッカーズ」とは、オランダ系移民が穿いていた半ズボンのことだ。この頃まで野球にはユニホームはなかったが、カートライトは統一した服装をすることを思いつき、「ニッカーボッカーズ」を着用することにした。「ニッカーボッカーズ」は、裾を絞ったズボンなので動きやすい特長があった。そして、半ズボンだったことから、その下には靴下をはくこととなった。ちなみに「ニューヨーク・ニッカーボッカーズ」のユニホームは上が白、半ズボンが青だった。

「ニッカーボッカーズ」は、“オランダ系移民”のことも意味していた。ニューヨークにはオランダ系移民が多く、「ニューヨーク・ニッカーボッカーズ」というネーミングはそうした地域特性を象徴していた。「ニッカーボッカーズ」は運動しやすい服装なので、野球だけでなく、乗馬でも使用されるようになった。足元が軽快で現在も建設現場などで広く使用されている。

1869年誕生の「シンシナティ・レッドストッキングス」が「赤い靴下」を履きチーム名とした

この「ニューヨーク・ニッカーボッカーズ」から、野球のユニフォームは半袖シャツに半ズボン、靴下を履くスタイルがスタンダードになった。1869年、初めてのプロ野球チームと言われる「シンシナティ・レッドストッキングス」が誕生する。ストッキングとは「長靴下」のこと。その名の通り、選手たちは「赤い靴下」を着用した。当時の野球のユニホームは、白を基調としたものが多く、識別が難しかった。球団関係者が他チームとの差別化を図るために「赤い靴下」にしたという。

1871年に「シンシナティ・レッドストッキングス」はボストンに移転し「ボストン・レッドストッキングス」となる。このチームはのちにミルウォーキー、さらにアトランタに移転し、現在の「アトランタ・ブレーブス」となる。

これに代わってボストンには、新たに1908年「ボストン・レッドソックス」が誕生する。「ソックス」は本来、「ストッキングスよりも短い靴下」のことだが、厳密な使い分けはなく「靴下」という意味で、ボストンにかつてあったチーム名を継承した。1901年にはシカゴに「シカゴ・ホワイトソックス」が誕生した。

こうして野球は「靴下を履いてするスポーツ」というイメージが定着し、他球団と差別化するために「レッドソックス」や「ホワイトソックス」のように靴下の色をチーム名にした。1919年のワールドシリーズで、シカゴ・ホワイトソックスの選手が関与した「八百長行為」は1920年に入って大問題に。「野球の潔白」を八百長で黒く汚したというニュアンスが込められている。メディアは「ブラックソックス・スキャンダル」と書き立てた。

ストッキングを見せる「クラシックスタイル」を再流行させたのはイチロー氏

野球の靴下は、当初は半ズボンの下に靴下を履くだけだったが、その後、白い靴下(アンダーストッキング)の上に色付きで、足の部分をくりぬいた「カットストッキング(スターラップス)」を重ね履きするようになる。染色技術が低い時代、ストッキングの染料が皮膚を汚すことがあったからだと言われている。

ストッキングは半ズボンから出して着用するのがスタンダードだったが、1990年代になるとMLB選手の中に、くるぶしのあたりまである長いズボンを穿いて、ストッキングを見せない着こなしが大流行する。これは日本にも伝わり、NPBでも多くの選手がストッキングを見せない着こなしをするようになった。これにともなってアンダーストッキングだけを着用して「カットストッキング(スターラップス)」を使わない選手も増えていた。

ちなみにアメリカでは、ストッキングを見せないユニフォームの着用は、MLBだけで認められていて、マイナーリーグでは認められていない。また、日本の高校野球でも「高校野球用具の使用制限」という通達の中で「ストッキングは見せることとする」と明記されており、プロ野球のような着こなしは認められていない。

21世紀に入っても、多くの日米のプロ野球選手はストッキングを隠してユニホームを着ていたが、MLBでは近年、ストッキングをはっきりと見せる「クラシックスタイル」の着こなしをする選手が増えてきた。そのきっかけはイチロー氏だったという。ストッキングを長く見せて塁を縦横に駆け巡るイチローの姿に触発されて「クラシックスタイル」に戻る選手が増えてきたとのことだ。「野球」と「靴下」の長く深い関係は。今後もいろいろなエピソードを生んでいくことだろう。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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