二宮尊徳の生涯が合唱組曲に 終焉の地・栃木の音楽家「故郷小田原でも」

下司愉宇起さん(本人提供)

 小田原出身で江戸期の農政家・二宮尊徳の生涯を、終焉(しゅうえん)の地である栃木ゆかりの音楽家らが女声合唱組曲「二宮尊徳」に作り上げた。初披露となる栃木でのコンサートでは絶賛の拍手を浴びた。全国へ向けた合唱楽譜の出版に当たり、詩を手がけた下司愉宇起さん(34)は、尊徳の故郷の神奈川でもハーモニーを歌い上げてもらいたいと思っている。

 歌手、指揮者、作詞家の下司さんは栃木・日光市の観光大使を務める関係で、同市(旧今市市)で晩年を過ごした尊徳に深く興味を持った。

 日光市の二宮尊徳記念館や報徳二宮神社などを訪ねて生涯を調べ、農地改革や治水かんがいなどの尊徳の業績が今でも地元に恩恵を与えていることに感動。その生涯を九つの短歌と一つの詩にまとめ上げた。

 作品は、栢山村(現在の小田原市)に生まれた尊徳が病気の父の代わりに働く一方、苦学して民衆を救うすべを習得。天保の飢饉(ききん)を一人の餓死者も出さずに乗り越え、今市で人々に尽くした生涯を終える一生を描く。「半ば神格化されている尊徳の、人間としての姿にスポットを当てた」と下司さん。

 それを10年来の知人だった作曲家・石若雅弥さん(39)に託し、初の共作として組曲に仕上げた。各曲が伸びやかに歌えるように特徴ある旋律を繰り返しながら、全体で彩り豊かなハーモニーとなっている。

 完成した翌月の昨年6月に、下司さんが地元で指導している女声合唱団「日光カンマーコール」が今市文化会館(日光市)で初披露。超満員の客席からは拍手喝采で、「日本が誇る宝の曲ができた」などの感想が寄せられたという。

 全国の人に歌ってほしいと今年2月に楽譜を出版。尊徳といえばかつて全国の小学校に金次郎像があり、戦前の軍国教育に利用された一面があるが、もう一度、真の尊徳像に興味を持ってもらいたいという思いが下司さんにはある。特に尊徳が生まれた神奈川には思い入れがあり、「日光と小田原は尊徳の縁で姉妹都市になっている。双方の合唱団で交流できたらいい」と期待している。

 1部1100円(税抜き)。楽器店で購入できる。問い合わせは、出版元のハンナ電話03(5721)5222。

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