水樹奈々の勝負曲? 中村美律子「河内おとこ節」記録に勝るロングセラー! 1989年 6月28日 中村美律子のシングル「河内おとこ節」がリリースされた日

演歌歌手 中村美律子の代表作「河内おとこ節」

今回は、このリマインダーのサイトに初登場!演歌歌手・中村美律子の代表作「河内おとこ節」を取り上げてみます。なお、“美津子” じゃなくて、“美律子”… 旋律の “律” です。

さて、1950年、大阪府出身の中村は、若い頃から河内音頭や浪曲にて鍛えたノドで、1986年にシングル「恋の肥後つばき」でデビューし、1989年6月28日に、サードシングル「河内おとこ節」を発売。以降、徐々にテレビでの露出も増えはじめ、各作品のシングルセールスが伸び、1992年には『NHK紅白歌合戦』に初出場し、2010年まで計15回の出場を果たしています。このうち8回で、「河内おとこ節」を歌っており、これは石川さゆりが「天城越え」と「津軽海峡・冬景色」の交互歌唱で2014年に記録を塗り替えるまで、同一曲での紅白歌合戦最多歌唱曲となっていました。

ちなみに、『NHKのど自慢』の予選も含めた2019年の歌唱人気曲でも、「天城越え」は演歌部門最高の17位で、「河内おとこ節」はそれに次ぐ18位。「天城越え」と異なり、10年近く紅白で歌われてないことを考えると、これは大健闘と言えるでしょう。

歌謡浪曲「瞼の母」、浄瑠璃演歌「壷坂情話」もおススメ

それほどまでに、「河内おとこ節」は中村の代名詞になっているのですが、私自身は、長谷川伸の原作をもとに書き下ろされた股旅もの演歌に、浪曲師の春野百合子が節をつけた中村美律子版の歌謡浪曲「瞼の母」(1999年9月発売、既に廃盤)をおススメしたいところです。

なにしろ、歌、浪曲、生き別れた息子・忠太郎、忠太郎の母・小浜、忠太郎の妹・お登勢の各台詞の五役を19分9秒にわたって一人で演じており、“歌怪獣” の愛称で近年注目されている、あの島津亜矢も中村を長年リスペクト歌手として掲げ、自身のコンサートでは中村をお手本に本演目を加えるほど。実際にコンサートでも、歌謡浪曲のイントロが流れると、いざ滂沱の涙を流さんとスタンバイするのか、バッグからタオルハンカチを取り出すオバちゃんを多数目撃します。

また、1993年に発売されたシングル「壷坂情話」も人気曲の一つ。こちらは浄瑠璃の人気演目『壷坂霊験記』を元にした演歌で、盲目の夫と、健気に支える妻の夫婦愛を描きつつ、5分55秒の間に、歌あり、浪曲あり、台詞ありと盛り沢山で、やや粘性のある甘い歌声と、威勢の良い力強い歌声を使い分ける中村の歌声は実にドラマティック。

ちなみに、このシングルはオリコンTOP100だけでも20万枚のセールスを突破し、ここまでのシングルを網羅した1993年発売の『ベストアルバム』は約5.5万本以上のカセットを売上げ、当時Wミリオン級にCDを売り飛ばしていた DREAMS COME TRUE や松任谷由実を抑えて、1994年度のカセットチャート年間1位となっているのです!

アマチュア時代の水樹奈々、のど自慢大会の勝負曲!

と、長年のファンゆえに、つい前置きが大変長くなりましたが、コロナ禍で元気を取り戻したい今、おススメしたい曲となると、やはり代表作の「河内おとこ節」。彼女が得意としてきた河内音頭を彷彿とさせる陽気なリズムに、「♪ アアン、アアン、アアン、アン~」とお調子者でありつつ、「♪ サテモ皆さま」と皆の前で啖呵を切るという威勢の良い男が描かれており、行間ににじむ情の厚さは、さすが大御所・石本美由起による歌詞の深さを感じさせます。

そして、この曲の極めつけは、何と言っても、ラストの「♪ かわーちーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぶぅうーしーー」のロングトーン。喫煙や咳風邪でノドを傷めている人は避けた方が良いでしょうが、10秒ほどのロングトーンが決まると、カラオケ大会でも大いに盛り上がります。現に、アマチュア時代の水樹奈々は、本作をのど自慢大会の勝負曲にしていたほどです。

なお、この程度じゃ足りないという方は、ロングトーンの途中で節回しも入れるという高度なテクニックを要する1999年発売の「河内酒」にチャレンジしてみるのも良いかもしれません。とにかく、このロングトーンを中村がしゃがみながら唸るというスタイルもバッチリ決まっています。

現在、流通しているのは東芝EMI時代に録音した初期バージョンと、2007年にキングレコードに移籍してからの新録バージョンが存在していますが、前者は紅白初出場を目指そうと力んでいるのも初々しくてつい応援したくなり、紅白初出場まで大阪地区で突出して売れていたのも納得できます。より詳しく知りたい方は、彼女の生い立ちを舞台やドラマ化した『中村美律子物語』のあらすじを私がまとめたものがあります。リンク欄で紹介しますので、ぜひご覧ください。

驚異のロングセラー、オリコンチャートでは見えない売上実績

ちなみに、オリコンが発表する本作の推定売上枚数は3.5万枚となっていますが、実はこれ、大いなる注意が必要です。なぜならば、本作は1989年にオリコン国内盤で最高140位、1990年に同120位とTOP100入りならずもTOP200内でロングヒットを続け、1991年にカラオケ入りCDとして再発売してようやくTOP100入りし最高位69位をマーク、1992年も最高114位と継続してヒット。そして1992年末に念願の紅白歌合戦に初出場となった効果で、1993年に最高92位と再びTOP100入りするという驚異のロングセラーとなっているのです。

2002年までのオリコンは、TOP100のみを売上げにカウントしていたのですが、TOP200内の登場回数はゆうに200週を超えており、当時の101位~200位の平均的なシングルセールスが2,000~2,500枚と考えると、この期間の累計売上は40万~50万枚、その後も紅白歌合戦で歌われるたびに話題となっているので、ハーフミリオンは確実に突破しています。このことは、私が100位内だけの数字でヒット曲を見てはならない、ひいては、ある結果を見る際にその調査集計方法も検討すべきだと、自戒するキッカケにもなっています。

そんな細かいことはさておき、現在中村美律子公式YouTubeチャンネルでは、「河内おとこ節」を使った演歌体操(演歌ビクス?)が公開されています。今年、古希とは思えぬ元気ぶり(失礼!)で、やはり歌を歌ったり、笑顔でいたりすることは、若さの秘訣だなと “美っちゃん” を見るたび思い知らされます!

Song Data
■ 河内おとこ節 / 中村美律子
■ 作詞:石本美由起
■ 作曲:岡千秋
■ 編曲:池多孝春
■ リリース日:1989年6月28日
■ オリコン最高位:69位
■ 推定売上枚数:3.5万枚(100位内)
■ 100位内登場週数:9週

カタリベ: 臼井孝

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